「クレー大嫌い!」のクルム伊達が43歳で見えてきたもの

  • 内田暁●文 text by Uchida Akatsuki photo by AFLO

 若いころから、クレーが大嫌い――!

 これが、そもそもの大前提である。クルム伊達公子は、赤土のコートが苦手だ。理由は、いろいろとある。

「大嫌い」と公言するクレーコートでも生き生きとボールを打ち返すクルム伊達公子「大嫌い」と公言するクレーコートでも生き生きとボールを打ち返すクルム伊達公子 クレーは、球足が遅くなる。そうなると、クルム伊達の最大の武器であるカウンターが、十分に威力を発揮できない。
 クレーは、足もとがズルズルと滑る。これもやはりクルム伊達の武器である、俊敏で軽快なフットワークとは相性が悪い。
 クレーは、ボールが高く弾む。すると、ボールの跳ね際を叩いて早いリズムで攻めるクルム伊達のテニスに、加速がつきにくい。

 43歳を迎えてなお、トップ選手を戦々恐々とさせる彼女のテニスの真骨頂は、数ミリ単位のラケット制御を、コンマ数秒の判断とタイミングで行使する精緻さにある。天候や気温で刻一刻と変化する不確定要素に満ちた土のコートは、クルム伊達の繊細さとは相容れないものがあるのだ。

 だが、そんな苦手なコートにもかかわらず......いや、むしろ苦手なコートだからこそ、ボールを懸命に追うクルム伊達の姿からは、テニスへの情熱と、この競技が持つ奥深さを骨の髄(ずい)まで堪能してやろうという「貪欲さ」がほとばしっていた。今回の全仏オープンでもクルム伊達は、シングルスとダブルスの両方に出場。シングルスでは、第24シードのアナスタシア・パブリュチェンコワ(ロシア)相手にフルセットの熱戦を演じ、第2セットは相手に1ゲームも与えぬ爆発力を発揮している。

 また、ダブルスの初戦でも、今年3月のマイアミ大会で敗れたヤロスラワ・シュベドワ(カザフスタン)/アナベル・メディナ・ガリゲス(スペイン)組に快勝してリベンジを果たした。

 嫌いなクレーにもかかわらず、なぜシングルスに加え、ダブルスにも出場するのか? そんな問いに、クルム伊達はこれ以上ないほど明快に答える。

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