錦織圭、トップ10入りの秘訣は「M・チャン式ドリル練習」 (3ページ目)

  • 内田暁●文 text by Uchida Akatsuki photo by Mutsu Kawamori/MUTSU PHOTOGRAFIA

 あるテニス関係者から、錦織がそう口にしていたと聞いたことがある。たしかに練習時のチャンは、自らラケットを手にして練習コートで球を出し、一球ごとに、「腕の位置は、ここだろう」「もう少しボールの後ろにしっかり入るんだ」と細かく指示を飛ばしていた。打っては修正が入り、修正どおりに打てば、「それだ! もう一本!」と、球打ちは継続していく。同じことを延々繰り返すドリル練習だが、錦織は、「反復練習の重要性を感じている」と口にし、手を抜く様子はまるでなかった。

 すでに世界の十指に肉薄し、技術面への自信も深めていたトップランカーが、まるで中学生を相手にするような指導によく従っているな……そんな風に思っていると、錦織の母・恵理さんが、本人の気持ちを代弁するように、こう言った。

「だって、そこ(トップ10)が越えられなくて、チャンの門を叩いたんですもの」

 その、『チャン式ドリル練習』に従った成果は、本人も、「安定感が増し、ミスが減った」と自認するストロークに顕著に表れる。

「左右どちらからでも、攻撃的に攻められるようになった」

 結果的には棄権敗退となったマドリード大会決勝のラファエル・ナダル戦後にも、錦織はそう口にして、世界1位にすら打ち負けぬストロークの感触を持ち帰った。

 数字の綾(あや)を期待するのではない。
 上位選手の脱落を待つのでもない。

 自信を積み上げながらも謙虚さを忘れず、リスクを恐れず新たな技術も取り入れながら、錦織は「10」という数字とともに、その数の前に屈した過去の自分をも乗り越えた。

 11ヵ月前に彼を覆った戸惑いの影は、もうどこにも見当たらない――。


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