【テニス】「一番良い年だった」と胸を張った錦織圭の真意 (2ページ目)

  • 内田暁●文 text by Uchida Akatsuki photo by AFLO

 テニスの大会は毎週、世界各地で開催されており、選手たちは自身の実力や状況に応じて出場大会を設定。ランキングは、それら出場した大会のうち、ポイントを多く稼いだ上位18大会の合計で決められる。だが、トップ選手たちには、出場を義務づけられた大会が複数(メジャー4大大会や、マスターズ1000の8大会など)存在するため、スケジュールの自由度は大きく規制されてしまう。つまり、トップ選手にとってのツアーとは、出場義務を課された大会に、いかにピークを合わせ、ケガなどで休むことなく最後まで走りきるかの戦いである。

 そこで改めて、今シーズンの錦織の戦績を振り返ってみよう。まず彼は、出場義務が課されたすべての大会に出場している。さらには、ランキング対象となる18大会の大半で3回戦以上に進出し、コンスタントにポイントを稼いできた(2013年の錦織は20試合に出場)。

 これが実は、偉業と言えるのだ。それは、他の選手の戦績と比べると、より明確になる。例えば今季、トップ10で終えた選手のうち、1位のラファエル・ナダル(スペイン)、4位のアンディ・マリー(イギリス)、5位のファン・マルティン・デルポトロ(アルゼンチン)、そして10位のジョー・ウィルフリード・ツォンガ(フランス)の計4選手が、4大大会のいずれかを欠場している。この欠場大会をマスターズ1000にまで拡大すると、すべてに出場しているトップ10選手は半分にも満たない4名で、18大会すべてに出場したのは、わずか3名しかいない。欠場の理由も、疲労の蓄積によるひざのケガや、ウイルス感染による疾患など多種多様だ。毎週のように異なる国、街、そして文化の中で戦う「ツアー」の過酷な現状を、これらのデータは端的に反映している。そのような状況を鑑(かんが)みた時、今季、錦織がグランドスラムやマスターズ1000を含めたポイントに反映される18大会すべてに出場したということが、いかに成しがたいことかが分かるだろう。

 この、シーズンを通して安定した成績を残せたという結果は、錦織に達成感と自信を与えたと同時に、もうひとつ、大きな副産物をもたらしたはずだ。それは、彼を支えるチームの面々への信頼である。

 今季の錦織は昨シーズンからスタッフの一部を変更し、身体のケアをしてくれるトレーナーを新たに帯同。同時にフィジカルを強化するため、ツアー中も要所で理学療法士のロバート・オオハシとトレーニングを積んできた。その結果、大きなケガによる長期の欠場もなく、1年を戦い切ったのである。シーズン中に肉体の痛みへの不安を口にしたこともあった錦織だが、スタッフを信じて10ヵ月半の長丁場を走り切ったことは、チームとしての一体感やモチベーションを生む上でも、大きな役割を果たしたことだろう。

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