【ラグビーW杯】歴史的勝利。日本代表が史上最大のアップセットを起こせた要因 (2ページ目)

  • 松瀬学●文 text by Matsuse Manabu 齋藤龍太郎●写真 photo by Saito Ryutaro

「同点はいらなかった」とフルバックの五郎丸歩もチームメイトの心境を代弁する。実はこのシーン、ジョーンズHCは観客席で「ショット(PG )!」と叫んでいる。でも、ピッチ上の選手はスクラムで一致した。選手が成長したということである。

 五郎丸が続ける。「あの時点、全員がスクラム(の選択)でした。勝たないと歴史は変わらない。勝利を最後まで、信じることができたんです」

 そのスクラムからいいボールが出る。右に回し、ポイントを作って、今度は素早く左に回した。センターのアマナキ・レレイ・マフィが外に引っ張り、外のカーン・ヘスケスにボールを渡した。そのニュージーランド出身の30歳が脱兎のごとく、左隅に飛び込んだ。執念の決勝トライ。

 ヘスケスは顔をくしゃくしゃにした。「走るコースが見えた。姿勢を低くして、足をドライブした。めちゃくちゃうれしかった。信じられない気分だ」

 確かに勝因は多々挙げられる。まずはディフェンスの勝利である。相手が慣れてない低いタックルを見舞わせ、1人目が下だと、2人目は上と、巨漢揃いの南アを倒すための"ダブルタックル"も意識した。

 倒れても、倒されても、足を懸命にかいて前に出る。なかでも急遽、クレイグ・ウィングに代わって先発出場したセンター立川理道のタックルがよかった。責任を果たした25歳は言う。

「僕には低いタックルしかない。(ディフェンスを)やりきってやろうと考えていました」

 ディフェンスがよければ、攻撃にもリズムが生まれる。後半28分、それまで相手スタンドオフ(SO)を狙って、ぶつかっていたことが伏線となった。立川が相手SOに当たる前にSO小野晃征に渡し、すかさずワイドに振った。ウイング松島幸太朗がラインをブレイクして、フルバッグの五郎丸につなぎ、そのまま右中間に飛び込んだ。

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