東京五輪で吉川晃司超えを目指す水球界の王子「小さな巨人」荒井陸 (4ページ目)

  • 佐藤俊●文 text by Sato Shun
  • photo by Yohei Osada/AFLO SPORT

 リオ五輪の反省を生かし、コロナ禍の前は海外遠征など年間200日の合宿を組み、実戦感覚を養い、戦術浸透に努めた。

 しかしコロナが猛威を振るい、東京五輪は1年延期に。そのニュースを知った時、荒井は目の前が真っ暗になったという。

「延期が決まった時はすごく落ち込みました。ただ冷静に考えると、通常どおり開催されていたら勝てなかったと思います。水球の練習時間は減りましたけど、延期されたことでやれることは増えた。普段やらないランニングをしたり、体のメンテナンスをしたり、得るものは多かったと思います」

 惨敗したリオ五輪から5年、荒井は手応えを感じている。

「リオのメンバーから半分ぐらい変わりましたが、若いフレッシュな選手が一緒になることで、できる戦術も増え、チームとして進化しています。それに東京でやれるということで、モチベーションもすごく高いです」

 荒井にとって2度目の五輪は、27歳という選手として一番脂が乗り切っている年齢で大会を迎えることになる。

「五輪は夢の舞台ですし、僕は目標としていた誰かに何かを届けられる唯一の場所だと思っています。結果を出してひとりでも多くの人に水球を知ってもらいたいですし、笑顔になってくれたらいいなって思います。もちろん、目標はメダルです」

 水球は、日本ではまだマイナースポーツのカテゴリーに入る。しかし、東京五輪で結果を出せば何かが変わるかもしれない。

「今は五輪に集中しているので、具体的に何をどうするのかは思い浮かばないですけど、水球を通して何かをやっていきたい。もうひとつ『水球といったら荒井陸』という存在になりたいですね。上の世代の人たちは水球というと吉川晃司さん(ミュージシャン、俳優/高校時代に水球選手として活躍し日本代表にも選ばれた)になるので、いつか超えられるようになりたいと思っています(笑)」

 32年ぶりに五輪へ出場したリオ大会で重い扉を開けたように、あきらめずに挑戦を続けていけば、その夢はきっと叶うはずだ。

プロフィール
荒井陸(あらい・あつし)/1994年2月3日、神奈川県生まれ。小学校低学年の頃から水球を始め、秀明英光高校から日本体育大に進む。168センチと小柄ながらも、俊敏な動きを生かして日本代表選手として活躍。2016年のリオ五輪にも出場した。大会後、ハンガリーの名門クラブ・ホンヴェードで1年間プレー。現在はKingfisher74に所属している。東京五輪でも活躍が期待される

FMヨコハマ『日立システムズエンジニアリングサービス LANDMARK SPORTS HEROES

毎週日曜日 15:30〜16:00

スポーツジャーナリスト・佐藤俊とモリタニブンペイが、毎回、旬なアスリートにインタビューするスポーツドキュメンタリー。
強みは機動力と取材力。長年、野球、サッカー、バスケットボール、陸上、水泳、卓球など幅広く取材を続けてきた二人のノウハウと人脈を生かし、スポーツの本質に迫ります。
ケガや挫折、さまざまな苦難をものともせず挑戦を続け、夢を追い続けるスポーツヒーローの姿を通じて、リスナーの皆さんに元気と勇気をお届けします。

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