水谷隼の変幻自在ラリーに大興奮。Tリーグ制覇へ木下が彩たまを下す (2ページ目)

  • 栗田シメイ●取材・文 text by Kurita Shimei
  • photo by T.LEAGUE

 一方の平野は珍しいサービスミスが散見されるなど、らしくない戦いぶりだった。その原因は、世界ランキング4位にまで上り詰めた張本の"圧"にあった。

「向こうに苦手意識があるかと思っていたんですが、逆に試合をとおして『何かされるんじゃないか』という怖さを感じました。今日は自分のよさがほとんど発揮できなかったですね。とくにチキータに苦しみ、手も足も出なかった。以前の対戦では感じなかった怖さで、こういう感覚は他の選手との試合では味わったことがないです」

 坂本監督も、「(張本の)成長速度が半端じゃない。計算の上をいかれた感じです」と、この日に前半戦MVPの表彰を受けた"怪物"に脱帽するしかなかった。

 木下が勝利に王手をかけた第3マッチでは、水谷が"因縁の相手"である鄭栄植(チョン ヨンシク)に対して意地を見せる。2016年のITTFワールドツアーグランドファイナル、2018年の世界選手権で敗れ、Tリーグ開幕戦でもフルセットの末に競り負けた水谷にとって、この試合は"リベンジ"の意味合いも込められていた。

 超一級の技術と戦術がぶつかりあった試合は、4セット中3セットがデュースに突入するシーソーゲームになったが、ロングサーブを有効に使うなど大事な局面でポイントを奪った水谷が勝利をたぐり寄せた。

 以前のように台から離れることなく、前衛で打ち合うスタイルに変化した水谷の変幻自在なラリーに、会場はこの日一番の盛り上がりを見せた。先月、10回目の優勝を果たした全日本選手権からの引退を発表して周囲を驚かせたばかりだが、出色のパフォーマンスで自身の存在感をあらためて示した。

 試合後、水谷は軽やかな口調で試合を振り返った。

「今日はサーブがよかったですね。勝負どころでロングサービスを出せたメンタル面が勝利に繋がりました。鄭栄植にはここ3回くらい負けていましたから、意識していたところもあります。前回、前々回の対戦ではレシーブがうまくいかなかったので、今日はチキータを積極的に出していった。最後もチキータが効きましたね。

(全日本選手権からの試合間隔を問われ)ロシアリーグでプレーしていた頃に比べると、体調面の管理の難しさや、感じるストレスは10分の1くらい。コンディションもいいですし、充実した競技生活が送れています」

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