10度制覇して卒業宣言。水谷隼が全日本卓球で示し続けた自らの進化 (4ページ目)

  • 城島充●文 text by Jojima Mitsuru
  • 中村博之●撮影 photo by Nakamura Hiroyuki

■もうひとつのバトンはまだ水谷の手に

 全日本の舞台に限定すれば、水谷はこれまでにない形で世代交代のバトンを後輩たちに託したことになる。

「これから年齢を重ねていくと、パフォーマンスは落ちていくだろうし、今までのような強い気持ちで全日本に臨むのも難しくなってくる。そのぶん、今大会にかける思いはものすごく強かったし、その思いがあったから優勝できたと思う」

 そう語った水谷は、記者から誘導される形で「東京五輪での金メダル」を今後の目標として公言した。だが、あえて個人的な推測を文字にすることを許してもらえるならば、水谷の気持ちがその一点に集中しているとは思えない。その根拠は、リオ五輪で銅メダルを獲得したあと、取材ノートに刻まれた彼の言葉である。

「僕がメダル以上に追い求めてきたのは、見ている人たちを感動させる理想のプレースタイルを完成させることなんです。今も限界の幅は広がっているし、確実に理想に近づいている」

 勝利の呪縛からほんの少しでも解放された今だからこそ、水谷はその夢に向かって新たな一歩を踏み出せるのではないか。日本卓球界の中心であり続けたメダリストにはまだ、後輩に託していないバトンがあるはずである。

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