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【Bリーグ10年目の開幕】35歳、比江島慎の輝きは増すばかり トップ選手としての実力と魅力に磨きがかかる宇都宮ブレックスの主役 (2ページ目)

  • 永塚和志●取材・文 text by Kaz Nagatsuka

【劇的シーン回想も「追い込まれないとやらない性格」】

 2025-26シーズンも、比江島は宇都宮というBリーグ屈指の人気と実力を兼備するチームの顔だ。一昨シーズンも、昨シーズンもそうだったように、新たなシーズンにおいても主役だ。

 主役ではあるが、チームを引っ張るのだと鼻息を荒くすることもなければ、力強い言葉を発することもない。富樫勇樹(千葉ジェッツ)などはベンドラメ礼生(サンロッカーズ渋谷)と共同で放送するポッドキャスト内で、抜群の実績を誇りながらまったくスター然とするところのない比江島という人間に対して感嘆ともつかない感情を示していた。

 比江島からすれば、遠慮なくいるのはコート上だけで十分だということか。もっとも、比江島にも人並みに調子という波の上げ下げがある。

 昨シーズン、長いレギュラーシーズンを戦ってたどりついたチャンピオンシップ(CS)で比江島の出来は必ずしもよくなかった。それでもチームはファイナルへ進出したが、そこでも彼のシュートは入らない。しかし、最終3戦目の最終クォーター。比江島は目を覚まし、このクォーターだけで14得点を挙げてチームを逆転での勝利に、そしてフランチャイズに3度目のBリーグ優勝杯をもたらした。

「性格的に追い込まれないとやらない性格なので。でも本当に、気持ちで決めたシュートだと思います」

 比江島はこの試合の残り30秒強にコーナーからねじこんだ逆転の3Pシュートについて、試合終了直後のコートインタビューでこのように話した。しびれる試合を通じての感動的な優勝を演出した立役者。にもかかわらず、彼の言葉は会場の笑いを誘った。比江島は、どこまでいっても比江島だった。

 新たな1年が始まる。宇都宮は昨シーズンなかば、ヘッドコーチのケビン・ブラスウェル氏が急逝するという大きな困難を迎えた。以降、チームはブラスウェル氏へ優勝杯を届けるという目標の下、悲壮な思いで戦っていた。CSでの比江島の不調も、そのことが影響したか。

 新シーズンでの比江島は、変わらずチームの中心だ。当然、相手にとっても彼が止めるべき人物のひとりとなってくる。

「今シーズンは例年以上にボールをもらう前から(相手の)激しさは増してくると思います。ピック(アンドロール)のところでもダブルチーム気味に来たりというのも今シーズンはより増えるんじゃないかとは予想できます」

 プレシーズンゲームの際、比江島はこのように話していた。その表情に彼ならではの「緩さ」はない。覚悟のこもったそれにも見えた。

 昨秋にはやはり長らくプレーしてきた日本代表チームから身を引く意向を示した。だが、彼のポジションに彼ほどの才がすぐ現れるわけもなかった。比江島が再び日の丸を背負って戦う可能性は、高そうだ。

 どうやら、トッププレーヤーとしての比江島をわれわれはもうしばらくは見ていられそうだ。そんな彼のいる宇都宮は、いうまでもなく今シーズンも優勝の筆頭候補の一角にいる。

著者プロフィール

  • 永塚和志

    永塚和志 (ながつか・かずし)

    スポーツライター。前英字紙ジャパンタイムズスポーツ記者。Bリーグ、男女日本代表を主にカバーし、2006年世界選手権、2019W杯等国際大会、また米NCAAトーナメントも取材。他競技ではWBCやNFLスーパーボウル等の国際大会の取材経験もある。著書に「''近代フットボールの父'' チャック・ミルズが紡いだ糸」(ベースボール・マガジン社)があり、東京五輪で日本女子バスケ代表を銀メダルに導いたトム・ホーバスHC著「ウイニングメンタリティー コーチングとは信じること」、川崎ブレイブサンダース・篠山竜青選手 著「日々、努力。」(ともにベースボール・マガジン社)等の取材構成にも関わっている。

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