河村勇輝のNBA挑戦 グリズリーズの番記者がプレシーズンで見た長所と課題 (2ページ目)
【課題はディフェンスも楽しむ姿勢がプラスに】
最大の長所を挙げるとすれば、そのパス能力でイージーショットを生み出せることでしょう。グリズリーズの控えメンバーに目をやると、ショットを自身でクリエイトできる(1対1から得点チャンスを作り出す)選手はそれほど多いわけではありません。チーム内でベストのショットクリエイターはモラント、デズモンド・ベーン、ジャレン・ジャクソンJr.、GG・ジャクソン。ポジション的な被りを考えれば、ユウキがモラントと一緒にプレーする機会はほとんどないはずです。ベーンと一緒にプレーすることも少ないでしょう。シーズン開幕後、ユウキがグリズリーズのゲームに出場することがあると仮定した場合、それは主力選手たちが休んでいる時間帯であることが想定できます。
そういった状況で、ユウキのプレーメイキング能力が助けになる可能性はあると思います。たとえばリーグ最高級のシューターであるルーク・ケナードは得意のロングジャンパーをお膳立てしてくれるパサーが必要です。セブンフッター(身長213cm以上の選手)ながらシュート力のあるハフにとっても、イージーショットを助けてくれる司令塔がいるに越したことはありません。ユウキは今後、新たなクリエイターと呼べる存在に成長する可能性があり、その意味でもグリズリーズへのフィットは良好なのです。
ただ、もちろんすべてが順調なわけではありません。課題を挙げるとすれば、やはりサイズ不足はディフェンス面でウィークポイントになると思います。
グリズリーズのディフェンスはスイッチすること(ボールの位置によって1対1でマークする対象選手を替えること)が多いのですが、ユウキがフロアにいる際、相手オフェンスに上手にボールを回され、オープンショットを生み出されるケースは何度か見受けられました。また、ユウキがハイポスト(フリースローライン近辺)で相手をガードした際、その選手に容易にパスを出されてしまうケースもありました。ユウキは自分なりの方法でディフェンスでも貢献を果たそうとするはずで、ブルズ戦では綺麗にスティールも決めていました。ただ、複数のポジションを守れる選手ではなく、ディフェンス面の多才さに欠けていることは弱点ではあると思います。
また、得点力の面ではまだ安定したものを見せてはいないことは少々気になります。これまで述べてきたとおり、周囲のためにクリエイトすることは上手ですが、自身でシュートを打つ機会、またその機会を作り出す場面が多いわけではありません。必要に応じてジャンパーを決めることはパスゲームの助けにもなるので、改善は必要でしょう。
ここまでシーズンに向けた準備を進める過程で、グリズリーズのチームメイトたちからユウキが愛されていることは印象的でした。ユウキがいると、大抵いつも選手たちは楽しそうに笑顔で言葉を交わしているんです。みんな英語のスラングをユウキに教えたりして楽しんでいますよ。そうやって人に好かれるというのも大切な要素です。
ヘッドコーチのテイラー・ジェンキンスはユウキのエナジーを絶賛していましたが、あまり自身を真剣に捉えすぎず、イージーゴーイングな点も好感が持てます。もちろん真剣にプレーはしますが、楽しむことが好きなグリズリーズに、性格面でもフィットしているように思います。そんなグリズリーズに今後、ユウキがどうやって貢献していくか、仲間たちとどんなケミストリーを奏でるか、私も楽しみに追いかけていきたいと思っています。
著者プロフィール
杉浦大介 (すぎうら・だいすけ)
すぎうら・だいすけ 東京都生まれ。高校球児からアマチュアボクサーを経て大学卒業と同時に渡米。ニューヨークでフリーライターになる。現在はNBA、MLB、NFL、ボクシングなどを中心に精力的に取材活動を行なう
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