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【車椅子バスケットボール】藤本怜央が目指すエースのかたち「チームのために泥臭く」 (2ページ目)

  • 星野恭子●取材・文 text by Hoshino Kyoko
  • 越智貴雄●写真 photo by Ochi Takao

 だが、大黒柱としてコートに立った藤本には厳しい戦いが続いた。世界選手権などで「得点王」に輝いたこともあり、「Fujimoto」の名はすでに「日本のエース」として相手チームに認められ、研究され、執拗にマークされた。時には審判の目さえ、藤本により厳しく注がれる場面も少なくなかった。

「予想はしていたけど、それ以上に厳しかった。『エースが背負わされるものの大きさ』を思い知り、いい勉強になった」

 チームとしての手ごたえもあった。世界の中で体格で劣る日本が目指すプレイスタイルは、全員で守り、獲ったボールを走ってつなぎ、最後にエースの藤本に託すという、藤本中心の「チームプレイ」だ。これが機能し、連続得点する場面も何度か見られ、「目指してきた方向は間違っていない」と実感できた。

 イタリア戦はまた、藤本に日本のさらなる可能性を感じさせる試合でもあった。この試合、藤本は13点を挙げたが、トップスコアラーは14点を挙げた増渕倫巳に譲った。さらに藤井新悟が11点、香西宏昭と宮島徹也が10点ずつを挙げている。藤本にボールを集める戦略の日本にとって、複数の選手が二けた得点を挙げる試合は珍しい。

 藤本は、「僕以外のシューターたちが仕事を全うした結果。日本の新たな強さを見せられたと思う。僕は、『藤本、すげー』はいらないんです。チームが勝つために、僕は泥臭いこともできる日本代表のエースでありたい。この試合でそれが表現できたと思う」と振り返る。

 実は、試合終了のブザーが鳴った時、藤本の姿はコートになかった。残り2分を切り、「厳しい笛」によるファウル5回で退場となっていた。だが、この2分間、もしかしたら藤本は、自分の存在をより強くコート上に感じていたかもしれない。

 退場してベンチに戻るとき、入れ替わりに入る仲間たちから、「あとは任せろ」と宣言され、ベンチに戻れば、他の仲間から「コートじゃなくても、やることはあるだろう」と鼓舞された。「チームのきずな」を感じ、落ち込みかけた気持ちが前向きになり、「誰よりも盛り上がってやる」とベンチからありったけの声を出し、コートに立つ仲間を励ましつづけた。藤本のいない2分間、チームはふんばり、全員バスケで乗り切った。

「欲をいえば、最後に自分もコートに立っていたかったけど、ベンチから見ていて、僕がいない分、かえってチームが引き締まったように感じた。この大会は終わったけど、新しくまた始まったなって思えた。そんな終わり方ができたことが、僕にとってロンドンでの一番の収穫。『4度目の正直』、ありますよ。見ててください」

 成長するエースから、成熟したエースへ。今よりも大きく、強くなった藤本が率いる日本代表を4年後のリオで見たい。そんな期待を抱かせる、ロンドンでの最終戦だった。

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