なぜ2021年のF1が「史上最高のシーズン」となったのか。中野信治が指摘する大手メディア企業の存在 (2ページ目)

  • 川原田 剛●構成 text by Kawarada Tsuyoshi
  • 桜井淳雄、村上庄吾●写真 photo by Sakurai Atsuo, Murakami Shogo

 もちろんレースの裏側を見せることには、いい面と悪い面があります。特に2021年からオープンになったチームの首脳陣とレースコントロールの無線は、おもしろいと思う反面、ファンが「なぜチームの首脳陣がレースディレクターの判断に異議を唱えたり、圧力をかけたりするのか」とモヤモヤした気分になるのは当然わかります。

 僕自身も、それらの無線のやり取りはオープンにすべきではなかったと思います。おそらくチーム側だって、オープンにしたくなかったはず。それでもファンに少しでもレースについてわかってもらうために、最終的にチーム側はOKの判断をしたと思いますし、ファンに無線の内容を聞かれているのをわかっていて話していました。メルセデスのトト・ウルフ代表とレッドブルのクリスチャン・ホーナー代表はカメラに抜かれるのをわかってポーズをとったり、演技をしたりしていました。メディアを通じた「人間ドラマ」がおもしろかったと感じている人も少なからずいました。

【過渡期を迎え、試行錯誤】

 F1を運営するリバティ・メディアやFIA(国際自動車連盟)は今、さまざまなことを試しているのだと僕は見ています。リバティ・メディアがオーナーになった5年前の時点で、ヨーロッパ中心にずっと続けられてきたF1はいろいろな意味で限界を迎えていたと思います。世界的にカーボンニュートラルが叫ばれるなか、自動車産業やモータースポーツは過渡期にあります。

 さらにファンのF1に対するイメージも変わってきています。以前のF1は裏側を見せなくてよかったんです。F1はすごい世界だという刷り込みがあったので、それだけでファンはレースを見てくれました。しかし今ではSNSが発達し、エンターテイメントも多様化し、楽しみの方の選択肢が増えた。そんな時代の流れのなかで、F1は従来の姿のままでは生き残っていけないと判断したんだと思います。僕自身も同じ考えを持っています。

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