父の教えを実践するベッテルの人柄は、愛車を見ればわかる
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記憶に残るF1ドライバー列伝(5)
セバスチャン・ベッテル
ピンと糸を張り詰めたような緊張感が漂うスターティンググリッドで、セバスチャン・ベッテルは周囲のノイズを掻き消すように、ヘッドフォンを両耳に当てた。
2010年から4年連続でF1王者に輝いたベッテル レッドブルで2度の王座を獲得し、3年連続を目指して挑んだ2012年は、レギュレーション変更でブロウンディフューザーは禁止となり、ノーズ高を下げることになった。レッドブルは競争力を削がれ、13戦目までに挙げることができた勝利はわずか1勝と、大苦戦を強いられていた。
ベッテルにとって初めてと言える大きな壁にぶち当たったこの年、スタート直前のグリッドだけでなく予選やフリー走行前のピットガレージ内でも、彼はヘッドフォンを身に付けて外界をシャットダウンするようになった。
ただ速く走りたい、速く走ることが楽しい。そういう思いだけでやってきた彼のレーシングキャリアは、この年、大きく変わったように感じられた。
しかし、それはあくまでコクピットの中だけの話だ。
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