F1で戦う日本人エンジニア・小松礼雄の苦悩。「それも醍醐味」 (3ページ目)

  • 米家峰起●取材・文・撮影 text & photo by Yoneya Mineoki

 ドライバーは感触が悪いから、そのクルマで攻めきれないわけです。攻めきれないから、タイヤにうまく力が入らない。でも、シルバーストンで開幕仕様に戻したら、一発で違いましたからね」

 シーズン中盤の第10戦・イギリスGPからは、2台のマシンを新型と旧型に分けて走行し、比較テストを行なった。つまりそれは、開発テストではなく、どこに問題があるのかという検証テストだ。もっとはっきり言えば、風洞など空力開発のプロセスに問題があると考えられる状況のなかで、「そんなはずはない」と言い張る空力部門を納得させるための実証実験だった。

「それってけっこう反発をくらう決断だし、小さなチームとはいえ、それをやるのは大変でした。でも、6カ月の努力を無駄にするよりも、3カ月のほうがいいじゃないですか? (現場の技術責任者である)僕がトラックサイドで新しいパッケージをうまく使えていない可能性もあるから、まずはその可能性を全部潰していったわけです。

 そのあと、タイヤをうまく使えていないんじゃないか、すべてを出し切れていないんじゃないか、そういう可能性を潰していって、それが全部違うという自信を持てたら、残りはもうこれ(空力開発プロセスの問題)しかない。最終的には(間違っているということを)証明しなければならないわけですから、何をやるにしても、やっぱり最後は"人"なんです」

 その時点で、シーズン後半戦に向けてマシンを大幅に改修する時間は足りず、チーム開発を2020年へとシフトせざるを得なかった。2019年の後半戦は、予選では速くても決勝で戦闘力が発揮できないマシンであるとわかっていながらレースをしなければならない、苦しい3カ月間だった。

 チームは開幕仕様のマシンを使い、フロントウイングやバージボード(※)などを2台別々の仕様にして走り、何が問題なのかを徹底的に洗い出すためのデータ収集に徹した。第15戦・シンガポールGPに投入予定だったアップデートは取りやめ、方向性を修正し、第19戦・アメリカGPに新型フロアを完成させた。その結果、空力開発の問題があらためて確認された。

※バージボード=ノーズの横やコクピットの横に取り付けられたエアロパーツ。

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