2019.10.17

山本尚貴がトロロッソで好走。思い出す30年前の「日本一速い男」の言葉

  • 川喜田研●取材・文 text by Kawakita Ken
  • 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

 それゆえ、「国内でダブルタイトルを獲得した日本人トップドライバーがトロロッソ・ホンダで日本GPを走る」という事実を素直に喜びたい一方、「山本と日本のF1ファンは『その先』にどんな可能性や夢を見出すことができるのか?」という問いへの答えを見いだせぬまま、何とも言えない「モヤモヤとした気持ち」で金曜日の朝を迎えることになった。

 では、実際のところ、山本の「F1デビュー」はどうだったのか? 結論から言えば、山本がF1初ドライブで見せた走りは「すばらしかった」のひと言に尽きる。走行開始からわずか4周目には1分34秒台に突入。その後、フロントウイングのセッティングをアジャストし、ソフトタイヤに履き替えると、17周目にはこの日の自身のベストタイムとなる1分32秒018をマークした走りは、掛け値なしに「合格点」だ。

 山本は、マシンを降りると、開口一番、まずは関係者への感謝を口にした。

「こんなに近くで多くのメディアの方に集まって頂いて、少し圧倒されています(笑)。F1を実戦で経験していない中で、できるだけの準備はしたつもりでしたが、それでも、自分の力と準備が本当に十分なのか、正直、不安なところもあったのも事実です。トロロッソやホンダの開発部隊・Sakuraのメンバーのみなさんが僕を助けてくれたので、大きなミスもなく走ることができました」

 その言葉はどこまでも謙虚だが、チームメイトとは異なるテストメニューや、タイヤ、そして路面コンディションの違いなどを差し引いても、同じトロロッソ・ホンダに乗るダニール・クビアトの1分31秒920からコンマ1秒落ちという結果と、ミスのない安定した走りは、山本尚貴が持つレーシングドライバーとしての実力をハッキリと証明できたと言えるだろう。実際、トロロッソの担当レース・エンジニアも山本のF1マシンへの適応力と正確なフィードバックを高く評価していたという。

 そして、もうひとつ感銘を受けたのが、FP1走行後のパドックでの取材を通じて感じた、山本の誠実な人柄だ。スーパーフォーミュラやスーパーGTの現場で彼をよく知る人たちにとっては周知のことなのだろうが、海外のメディアや、筆者のように初めて直接取材を受ける相手の質問に対しても、しっかりと言葉を選びながら、丁寧に答えようとする姿に心を打たれた。

 2017年のスーパーフォーミュラで山本尚貴のチームメイトを務めた経験のあるピエール・ガスリーが「ナオキがF1を経験してみたいという気持ちは理解できる。だから、彼にこの機会を存分に味わってほしかったんだ」と、快くFP1での走行を譲ったのも、そうした彼の人柄があってのことだと思う。