室屋義秀が最後のエアレース王者へ。勝敗のカギを握る新ルールへの対応

  • 浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki

 レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップの2019年シーズン開幕戦が2月に行なわれてから、およそ4カ月。衝撃の発表はあまりに突然だった。

 レッドブル・エアレースは2019年シーズンをもって終了する――。

 レッドブル・エアレースの公式発表によれば、レース開催は今季限りで、しかも今季行なわれるレースは、カザン(ロシア)での第2戦、バラトン湖(ハンガリー)での第3戦、千葉での第4戦と、残り3戦のみとなったのである。

 ファンはもちろん、パイロットをはじめとするチームスタッフですら、寝耳に水の決定だったが、発表直後、室屋義秀は「チャンピオンシップの年間戦略を修正しながら、現在のリーディングポジションを維持できるよう全力を尽くす。他のことは考えず、100%レースに集中していく」とコメントを発表している。

 レッドブル・エアレースの終了はもちろん、残念である。だが、レースに臨むパイロットが勝負に集中しようとしている以上、見る側も残り少ないレースを最大限に堪能すべく、準備をしておきたいところだ。

 そこで、6月15、16日にロシア・カザンで行なわれる今季第2戦を前に、主に今季から変更となったオーバーGのルールに焦点を当て、室屋が"ポールトゥウィン"で制した開幕戦(UAE・アブダビ)をあらためて振り返りたい。

UAE・アブダビでの開幕戦で勝利した室屋(中央)photo by Joerg Mitter / Red Bull Content PoolUAE・アブダビでの開幕戦で勝利した室屋(中央)photo by Joerg Mitter / Red Bull Content Pool まずは、オーバーGのルール変更について、簡単におさらいしておく。

 昨季までのルールでは、最大重力加速度が12Gに達した時点でDNF(途中棄権)。10G以上12G未満の場合は、0.6秒以内であればノーペナルティだった。

 そのため、ほとんどのパイロットが「11.5Gくらいまで一度かけて、0.6秒以内に9.5Gくらいまで戻し、もう一度11Gをかけて、0.6秒以内に戻す、ということをやっていた」(室屋)。公式映像で解説をしている、元・世界チャンピオンのポール・ボノムが「ダブル・プル」と"命名"したことで、その名が定着した操縦技術だ。

 実はこのダブル・プルは、室屋が2014年シーズンの終わりくらいから取り入れ始めたテクニックだ。

「それをやり始めたことで、僕が2015年から速くなったので、他のパイロットも取り入れるようになった。2017年はやっていないパイロットもいたが、昨年はほぼ全員がやっていた」

 ただ、ダブル・プルは「わずかな時間に急激なGの変化が、ガン、ガン、ガンと起きるので、体に悪いし、機体への負担もやさしくはない」と室屋。しかも、機体の性能が上がっているのでコントロールが難しく、安全性という観点からも好ましいものではなかった。

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