トップ快走のマルケス、まさかの転倒。
得意中の得意コースで墓穴掘る

  • ニール・モリソン●取材・文 text by Neil Morrison 西村章●翻訳 translation by Nishimura Akira
  • 竹内秀信●撮影 photo by Takeuchi Hidenobu

 グランプリ界を12年前に去ったとはいえ、ケニー・ロバーツ氏は今もやはりレースのツボをよく心得ている。伝説の王者"キング"ケニーは、アルパインスターズが発表した限定モデルのブーツの宣伝活動で、第3戦の開催地サーキット・オブ・ジ・アメリカズを訪問していた。ライダーとして3度、チーム監督としては4回の世界タイトルを獲得した人物だけに、氏はパドックにも万全の目配りを利かせていた。

アメリカ合衆国のレースで圧倒的な強さを誇っていたマルケスだったが......アメリカ合衆国のレースで圧倒的な強さを誇っていたマルケスだったが...... 土曜には、なかば奇跡的な息の長さで現役活動を続けるバレンティーノ・ロッシ(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)に対して、「もう安楽椅子でくつろいでもいい年齢じゃないのかい」と言い放ったが、それよりもさらに最大級の賛辞を向けた相手がマルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)だった。

 7回の世界チャンピオンを獲得したマルケスについて、ロバーツ氏がまず指摘したのは、彼のライディングは自分の現役時代を彷彿させる、ということだった。

「コーナーに思いきり突っ込んでクルリと回り、立ち上がっていく。あれこそ私が現役時代にやろうとしていたことなんだよ」と、グランプリ参戦初年度(1978年)にいきなりチャンピオンを獲得した改革者は説明した。「でもまあ、私はあそこまでうまくはできなかったけれどもね」

 優勝を逃したものの僅差のバトルを繰り広げた開幕戦カタールと、大差をつけて圧勝した第2戦アルゼンチンのレースにも、ロバーツ氏は言及した。「誰かがずっとへばりついて思いきりプレッシャーでもかけないかぎり、あれではミスのしようがないだろう。現状では、それもちょっと難しそうだね」

 では、いったいどうすればマルケスを止められるのだろう?

「自分で墓穴を掘る、くらいしか私には思いつかないね」

 その翌日の決勝レースで、マルケスがあまりにあっさりと転倒して戦列から離れた際に、まず脳裏に思い浮かんだのが、上記のロバーツ氏の言葉だった。なんといってもマルケスは、アメリカ合衆国のレースで13連勝(MotoGPクラスでは11連勝)を目前にしていたところなのだ。

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