【F1】小林可夢偉、やっと完走も「ホッとしている場合じゃない」 (2ページ目)

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

 豪雨によって50分のディレイの後に行なわれた予選では、チームメイトのマーカス・エリクソンが縁石に乗ってコントロールを失い、激しいクラッシュを演じてしまった。少しでも無理な走りをすれば、可夢偉とてああならないとも限らないのが今のCT05なのだ。

「まぁ、恐いですよ。尋常じゃないくらい運転しづらくて。どこが悪いかといえば、全部です。どこかひとつでも満足できたら、もうちょっとタイムが良いと思いますけど、これからの開発の方向性をどうすればいいのか......。明日(決勝)はドライでも雨でも遅いと思うんで、どうせなら雪でも降ってくれれば良いんですけどね!(苦笑)」

 そんな苦しい状態のクルマでも、可夢偉は「とにかく走りたい」と言った。

 まずは56周のレースで1周でも多く走り込み、少しでも多くのデータを収集したい。決勝レースという場ではあっても、可夢偉とケータハムは目の前のライバルたちとレースをするのではなく、自分たちが前に進むために自分たちと戦っていた。

「できるだけたくさん走りたい。走りたくて仕方ないんです」

 可夢偉は懇願するように言った。自分たち自身との戦いすらできない現状に、可夢偉は祈るような気持ちでマレーシアGPの決勝を迎えたのだった。

 開幕戦のオーストラリアGPではスタート直後にリアブレーキを失い、1コーナーでクラッシュしてレースを終えてしまった。他車を巻き添えにしたことであらぬ誤解を招いたこともあり、可夢偉は万一またトラブルが起きても同じような事態にならないよう慎重に1コーナーへとアプローチした。

「誰もいないアウト側のラインを取りました、またぶつかったら何を言われるかわからへんもん(苦笑)」

 それでもスタートダッシュの良さで可夢偉は20番グリッドから15番手へと浮上し、その後も安定したペースで順調に周回を重ねた。周囲のザウバーやマルシアと同等のペースで走ることができたのは、嬉しい誤算だった。可夢偉は周囲と戦うことになど目もくれず、無理をせず自分たちのペースで走り続けたのにもかかわらず、だ。

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