【F1】安全性に疑問。イギリスGPでピレリタイヤが連続バースト (2ページ目)

  • 米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki 桜井淳雄●撮影 photo by Sakurai Atsuo(BOOZY.CO)

「もちろん、彼ら(ピレリ)が何をやっているか詳細は分かりませんから断定はできませんが、おおよそ何をどうしてこうなったかということは分かります。何かを解決しようとして何かをやって、それが別の問題を生むというパターンは結構あるんです」

 シーズンの8戦目にして突然このようなトラブルが多発した背景には、実は伏線があった。

 4月に行なわれた灼熱のバーレーンGPで、タイヤ表面のゴムが剥がれる「デラミネーション」という症状が複数のマシンに起きた。これはタイヤのオーバーヒートによるもので、そもそもの原因は今年から表面ゴムを貼り付ける内部のベルトを変更したことにあった。

 続くスペインGPでも同様の症状が発生したため、ピレリは対策を講じた新型構造をカナダGPに持ち込みテストした。だが、そのタイヤが供給される金曜日が雨に見舞われてしまい、充分なテストができなかった。そのため数チームが翌イギリスGPからの実戦投入に反対し、イギリスGPには応急処置として表面ゴムの接着方法だけを変更したタイヤが持ち込まれることになった。

 つまり、イギリスGPで使用されたタイヤというのは、今シーズンこれまでに一度も使用されたことのないタイヤだったのだ。

 今井は、その接着方法の変更が今回の問題を引き起こしたのではないかと見ている。タイヤのトレッド(地面と接触する部分)と(トレッドの内側にある)ベルトの接着が強化されたことで、タイヤのショルダー部分(トレッドの横の部分)にこれまで以上の負荷が掛かるようになってしまったのかもしれない。それが今井エンジニアの言う「何かを解決しようとして何かをやって、それが別の問題を生む」という意味だ。

 実際、今回のバーストはいずれも最初に左リアタイヤの内側に亀裂が入り、そこからベルトが裂けて飛び散るというものばかりだった。

「左リアに一番負荷が掛かりますからね。キャンバー角(正面から見てハの字型に斜めにすること)がついていて揉まれるから、イン側(タイヤの内側)が一番厳しくなる。(破片によるカットが原因だというのなら)左のリアが一番デブリ(コース上のパーツの破片やゴミ)が当たりやすいなんてことはないでしょう?」(フェラーリ浜島裕英エンジニア/元ブリヂストン)

「タイヤに限ったことではありませんが、製品設計というものには(ひとつの製品の中で)いろんな相関関係というものがあります。そういう観点から見ると、今回起こったことは理解できます」(今井)

 縁石によるカットを疑うチームもあったが、コースを熟知しているタイヤエンジニアの両氏とも、縁石ではないという見方だ。

「ここの縁石はそんなに高くないですよね。それを言うなら、カナダの方が縁石に乗り上げたときにバーストする可能性が高いですしね。だからウチは縁石については特に指示はしませんでした」(浜島)

 両氏ともにこうした事態の発生は予期していたものの、いずれもチームの片方のドライバーがバーストに見舞われている。データ上でも何の前触れもなく、突然壊れたのだという。問題は、分かっていても対策を講じることができないようなものであるということだ。

「こればかりは対策のしようがないんですよね。コンパウンド(タイヤの素材)もセットアップも関係なく、かなりランダムに発生しますから。極端な話、どうしようもないんです」(今井氏)

 レースは結局、ニコ・ロズベルグ(メルセデス)が優勝。2位にレッドブルのマーク・ウェバー、3位にフェラーリのフェルナンド・アロンソ、タイヤをバーストしたハミルトンは4位に入った。

 レース後、今井エンジニアはピレリのモーターホームを訪れた。クレームを付けにいったのではなく、設計に携わっているエンジニアに自分の考えをアドバイスしにいったのだという。

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