エリザベス女王杯と聞いて思い出す「ベガはベガでも、ホクトベガ!」 (2ページ目)
実はこの2頭、そのプロフィールからして、極端な違いがある。
ベガは、例えて言えば「良家の子女」。父がトニービンで、大牧場・社台ファームの生産馬。馬体重は430kg台とスマート。主戦を務めるのが名手・武豊騎手で、「勝気な天才少女」とったイメージだった。
片やホクトベガは、父がダートに良績を残すナグルスキーで、クラシック馬を輩出する名門ながら浦河の小牧場生まれ。馬体重は490kg前後とどっしり。ベガに比べると洗練さに欠け、例えは悪いが、ぽっちゃりした「田舎娘」という印象だった。
実際にレースでも、春の二冠はそのイメージどおりの結果に終わった。
ベガはどちらのレースも先行し、好位から直線で抜け出すという正攻法の競馬で、鮮やかな勝利を飾った。
一方、ホクトベガはともに中団かそれよりも前に構えながら、ジリジリとしか伸びず、掲示板に載るのが精いっぱい。勝ち負けに加わることはなかった。
もともとホクトベガは、その血統どおりダート戦でデビューし、ダート戦でオープン入り。芝の重賞レースも勝っているものの、一線級が集うGIレースでは決め手不足が目立った。
「芝では切れ味に欠ける」――いつしかそんなイメージが定着し、エリザベス女王杯でも9番人気という低評価に甘んじた。
だが、エリザベス女王杯に向けて、ホクトベガ陣営には秘策があった。
下敷きとなったのは、1976年の菊花賞(京都・芝3000m)。エリザベス女王杯と同じ京都競馬場で行なわれたこのレースで、ホクトベガを管理する中野隆良厩舎の先輩、グリーングラスが勝っていた。
この年の牡馬クラシックは、トウショウボーイとテンポイントの"TT対決"が世間を沸かせ、菊花賞ではダービー馬クライムカイザーを含めた3頭が主力を形成。それらの陰に隠れて、グリーングラスは12番人気と、その他大勢の"脇役"にすぎなかった。
だが、レースでは「3強」のうち、トウショウボーイとテンポイントが熾烈な争いを見せるなか、それを尻目に、まんまと漁夫の利を得たのが、グリーングラスだった。
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