デアリングタクト、格安牝馬の逆襲。騎手との信頼関係で無敗の二冠達成 (3ページ目)

  • 新山藍朗●文 text by Niiyama Airo
  • photo by Kyodo News

 そして、最後の直線も同様だ。

 無難に外を回すプランもあったが、馬群が密集し、外側も他馬に封じられていたため、それは不可能だった。結果、前の壁がなかなか開かず、抜けようにも抜けられない状況に陥った。もしここで、焦って、無理やりにでも進路を取りに行こうとしたら、どんなアクシデントが起こっていたかわからない。

 だが、松山騎手はそこでも、無謀なことはしないで、前の壁に隙間ができるまでじっと待った。進路が開きさえすれば、「デアリングタクトなら差し切れる」という愛馬への信頼と確信があったからだ。

「馬に助けてもらいました」

 レース後、松山騎手はしみじみとそう語った。

 主戦ジョッキーから寄せられる絶大な信頼――これに対してデアリングタクトは、メンバー最速の上がり33秒1という驚異の末脚で応えた。

 今年のオークスではまた1頭、「歴史的」という賛辞のつく名牝が誕生した。

 その"名牝"デアリングタクトは、北海道・日高にある、年間生産頭数が10頭前後の小さな牧場で生まれた。そして、1億円を超える馬が何頭も取引される「セレクトセール」(2018年)において、わずか1200万円(税別)で買い取られた。この年、同セールで取引された1歳牝馬86頭中、76番目の金額だったという。

 その馬が今、世代の頂点に立った。この大逆転劇もまた、競馬の醍醐味のひとつである。

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