【競馬】ディープブリランテが生後2カ月で上場された理由 (2ページ目)

  • 河合力●文 text&photo by Kawai Chikara

 しかし、ディープブリランテをその年のセレクトセール、つまり当歳馬のセッションに上場するには、生まれた日が遅すぎた。

 サラブレッドの出産は4月がピーク。しかし2~3月に生まれる馬も多く、早く生まれた馬は当然、同世代の中でひと足先に成長する。生まれた時期による馬体の差は、年齢を重ねる中で徐々に解消されていくが、当歳の頃、それもまだ生後2~3カ月となればその差は歴然だ。

 ディープブリランテは、確かに素晴らしい馬体の持ち主だった。それは疑いようのない事実だが、生まれたのは5月8日。1~2カ月前に生まれた同世代の馬と比べれば、さすがに筋肉の付き方は劣ってしまう。いくら目の肥えたバイヤーが集まるセレクトセールでも、"遅生まれ"によるハンデは明白。だからこそ伊藤氏は、「成長を待って、翌年のセレクトセールに出すほうがいい」と考えたのだった。

 もちろん、スウィーニィ氏もその点は考慮していた。と同時にもうひとつ、その年のセレクトセールに出すには大きなハードルがあった。

「セレクトセールでは、上場馬すべての写真が載ったカタログが作られます。バイヤーは、そのカタログを見て良い馬を探すわけですから、載せる写真はとても重要。ただし、カタログを作るにも時間がかかりますから、写真の提出には"締め切り"が設けられています。2009年の場合は、確か5月12日が締め切り。ディープブリランテが生まれた4日後です。これは困りました」

 2009年のセレクトセールは、7月13日~15日の開催。ディープブリランテにとって、生後2カ月の馬体で同世代の馬と比較されるのは、もちろん厳しい。だがそれ以上に、バイヤーが見るカタログの写真が、生まれたばかりの姿であることのほうがつらかった。高い評価を得るには、あまりに過酷な状況だったのだ。

 それでもスウィーニィ氏は、ディープブリランテをその年のセレクトセールに上場した。なぜ彼は、当歳でセリ市の舞台に上げることを選んだのだろうか。

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