【競馬】ダービー制覇へ、エピファネイアが背負う「家族の思い」 (3ページ目)

  • 河合力●文 text by Kawai Chikara
  • photo by Nikkan sports

 1歳下のヴァイオラにも、過酷な運命が待っていた。トゥエルフスナイトと同じく、脚元をいたわりながらの調整が行なわれたものの、デビューへあと一歩まで来た3歳2月に蹄葉炎(ていようえん/蹄〈ひづめ〉に起こる疾患で、脚部を痛めた馬が併発するケースが多い。サンデーサイレンスなど多くの名馬が、蹄葉炎により亡くなっている)を発症。一刻を争う状況の中、大手術を行なったが、結局、レースでその姿を見ることはできなかった。

 高い能力を見せながら、たった1度のレースで現役を退いたトゥエルフスナイト。期待されながらも、ターフを踏むことさえできなかったヴァイオラ。兄と姉が悲しい運命を辿ったあとにデビューしたのが、エピファネイアだった。

「初めてエピファネイアを見たとき、兄と姉を上回る馬体のバランスの良さを感じました。母譲りの厚い筋肉が、全身にくまなくついている。このような馬体の持ち主は、体全体を使ったフォームで走れますから、脚部への負担も軽減されます。当然、期待は高まりましたね。母の高い能力を、やっと子が『成績』として残せる時が来た、と。それは、兄と姉の能力を証明することにもなるはずです」(永島氏)

 母・兄・姉と同じ、角居勝彦厩舎に所属したエピファネイアは、見立て通り、すこぶる順調に競走生活をスタートさせた。競走馬としては理想的な2歳の10月にデビューすると、母の手綱を取った福永祐一騎手を背に、重賞を含むデビュー3連勝。脚元の不安は感じさせなかった。

 年が明けて、3歳初戦の弥生賞こそ4着に敗れたが、続く皐月賞では、勝ったロゴタイプからコンマ1秒差の2着。それも、折り合いを欠いて、ライバルの目標にされながらの結果となれば価値が高い。母から受け継いだ猛々しい闘争心をうまくコントロールすることができれば、日本ダービーでの逆転は十分に考えられる。

 第80回を迎える今年の日本ダービー。記念すべきその年の優勝馬として、エピファネイアの名を刻めれば、兄と姉はもちろん、その2頭に携わった多くの人たちも、きっと報われるのではなかろうか。

 たった1度のレースで無念の引退となった兄トゥエルフスナイト。表舞台に上がることさえできなかった姉ヴァイオラ。2頭の無念を晴らし、母シーザリオに競馬界最高の栄誉をプレゼントすることはできるのか。家族の思いを背負って、エピファネイアが日本ダービーに挑む。

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