【競馬】競馬先進国の人間が驚愕した日本の「競馬システム」 (2ページ目)

  • 河合 力●文 text&photo by Kawai Chikara

「日本語がわからず、さらに日本の競馬に関する知識もない中での1年目は苦労ばかり。今でもそのときの話をするたびに『よく続けられたね』と感心されます。でも、私の気持ちはむしろその反対。日本の競馬を知れば知るほど『もっとここで働きたい』と考えるようになりました。なぜなら日本は競馬後進国でありながら、すでにヨーロッパやアメリカよりずっとレベルの高い、"世界一"の競馬システムを作り上げていたからです」

 競馬の中心地であるヨーロッパより、はるかに成熟した競馬システムに感嘆したというスウィーニィ氏。なかでも驚いたのは、レース賞金の高さだった。

 凱旋門賞をはじめ、ヨーロッパのビッグレースにおける賞金は、日本のビッグレースと比べても遜色はない。今年の凱旋門賞を例にとれば、賞金総額400万ユーロ(約4億円)で、優勝賞金は228万5600ユーロ(約2億2800万円)。日本競馬最高賞金額のジャパンカップの1着賞金2億5000万円とほぼ変わらない。しかし、それ以外のレースに目を向けると、日本とヨーロッパとではレースごとの賞金に歴然とした差がある。

 例えば、凱旋門賞に挑んだオルフェーヴルが、その前哨戦として勝利を収めたフォア賞。このレースはGⅡという格付けがされており、GIに次ぐ価値を認められているのだが、その1着賞金は74.100ユーロ(約740万円)。それに対して、同じ時期に日本で行なわれるオールカマーなどのGⅡレースは、1着賞金6000万円。1990年当時の金額は現在より低いものの、このようなヨーロッパと日本との賞金差は以前からあって、スウィーニィ氏は高額レースの多さに目を丸くしたという。

「驚いたのは、賞金だけではありません。通常、出産シーズンが終わると、登録機関のスタッフが牧場に来て、生まれた馬の毛色や模様、身体的な特徴などをデータに登録していくのですが、アイルランド時代、その登録作業は獣医師がひとりで100頭近くやっていました。でも、日本ではもっと少ない頭数に対して、スタッフが3人も来たのです。思わず『3人も必要?』と冗談を言ってしまいしたが、考え方を変えれば、それだけ人手や費用をかけられるということ。つまり、レース賞金に限らず、競馬界全体で動いているお金が、ヨーロッパよりずっと大きいのです」

 日本競馬の持つ市場の大きさに魅力を感じたスウィーニィ氏は、同時に、競馬後進国でありながら、本場ヨーロッパにも負けない生産・育成システムの成熟度にも目を見張った。

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