【競馬】パカパカファーム物語。来日したばかりのアイルランド人を襲った苦難 (2ページ目)

  • 河合力●文 text&photo by Kawai Chikara

 自らの故郷アイルランドで幼少期を過ごした偉人に思いを馳せつつ来日したスウィーニィ氏。大樹ファームでのキャリアをスタートさせるのだが、来日直後からさっそく彼を苦難が襲う。

 というのも、4月はサラブレッドの繁殖シーズン。牧場の繁殖牝馬(競走馬を生むために牧場で管理する牝馬。繁殖期になると「種牡馬」と呼ばれる実績馬や良血馬と交配される)を交配させるため、相手の種牡馬がいる牧場まで車で運ばなければならない。しかし、スウィーニィ氏は日本語の地図が読めないため、近隣牧場のスタッフに目的地までの道を教えてもらい、オリジナルの地図を作ったという。

「当時は道路案内にもローマ字表記がなかったので、建物や風景を目印にするしかありませんでした。『赤い屋根の倉庫を越えたら右折』『煙突が見えたら手前を左折』という具合に、道順を覚えましたね。でももし、目印の『赤い屋根』が黒く塗りかえられていたら......途端に迷ってしまったことでしょう」

 この他にも、言葉の壁を痛感するシーンは多々あったものの、来日時の大樹ファームは繁殖牝馬が7頭のみで、スタッフも他に1名いるだけだったため、「コミュニケーションによる大きなトラブルはなくやっていけた」という。

 しかし、大樹ファームでの1年目において、コミュニケーション以上に彼を悩ませるものがあった。夏になると大量に発生するアブの存在である。馬はアブに刺されると、かゆみを感じるだけでなく、夏癬(かせん)とよばれる皮膚病を引き起こすことがある。と同時に、かゆみは馬にとって大きなストレスになるため、スウィーニィ氏はかなり気を揉(も)んだという。

「大樹ファームにいたときは、本当にアブへの対処が大変でした。アイルランドの牧場や今のパカパカファームがある新冠町と比べても非常に多く、手を焼きましたね。さまざまな対策は施しましたが、一番大切なのはやはり『細かく馬をチェックする』というもっともシンプルなことでした。当時は私ひとりで馬を見ていたので、夏はずっと外に出て、馬に異変がないかチェックしていましたよ」

 アブ対策に追われた1年目の夏だったが、ホッとする暇もなく、冬にも大きな環境面の問題に直面する。大量の降雪だ。来日した春、初めて大樹ファームを訪れたとき、雪解けの影響でグチャグチャになった地面を見て、彼は大きなショックを受けたという。4月だというのに青草はほとんどなく、「馬が住む環境としてはかなり悪い」と感じたのだ。

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