渋野日向子が愛される理由。精神科医「周りの人間を幸せにするタイプ」 (3ページ目)

  • 浅田真樹●取材・構成 text by Asada Masaki
  • photo by Kyodo News

 例えば、「先生なんかに、私の気持ちは一生わからない」と言われたときに、「そう言われる治療者って、意外とみじめなんですよね」と答えるとか。要するに、患者さんに「先生も、ですか?」って思わせると、距離がグッと縮まる。

 それと同じで、世界で活躍するアスリートだからといって、"スーパースター感"だけを漂わせるのではなく、見ている人たちに"あなたも、ですか?"と身近に感じさせることは、勝負に関係あるかどうかは別にして、人気にはすごく関係がありますよね。

 スポーツの世界は、強いだけではなかなか人気者になれない。渋野さんは、すごく美人だとか、アイドル顔だから人気があるとかではなく、どこにでもいそうな女子大生みたいな感じだし、言動も含めて、少なくとも日本ではウケるタイプだと思います。

 渋野さんは、気持ちの切り替えもうまくできる人のようなので、これから先、ポツンポツンとすごいタイトルを獲りそうな気がします。ただ、そうなってくると、周囲が彼女をマスコミやファンから遠ざけて、神格化しようとするかもしれない。それが、ちょっと心配です。

 でも、やっぱり今のままでいるほうがいいですよね。「私、失敗しないんで」みたいな人にはならないほうがいい(笑)。ときどき失敗はするけど、次のホールではめげないでいいショットをするとか、今日の試合は負けちゃったけど、次の試合では抜群に強いとか。今の彼女の、その自然体はすごく魅力的です。

 渋野さんは、周囲の期待とか、一般的にはプレッシャーになりそうなことを明るく考えられそうな人。もちろん、東京五輪で活躍する可能性もあるでしょう。五輪のような大きな舞台でも、たぶん、「ここで勝ったら目立てるだろうな」って思える人ですよね。むしろ彼女は、「ここで勝ったらすごいよね」っていう考えを、プレッシャーにしないで、自分を乗せるのに使える人なんじゃないかな。

 結局のところ、それは自分を信じているかどうか。自分を信じていない人間は、周りに左右されてしまうんです。渋野さんは、自分を信じることができている人なんだと思います。

和田秀樹(わだ・ひでき)
1960年6月7日生まれ。大阪府出身。東京大学医学部を卒業後、東大病院精神科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェローなどを経て、現在は国際医療福祉大学大学院心理学科教授。和田秀樹こころと体のクリニック院長。

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