チャンピオンズリーグ決勝 欧州で最も調子のいいPSGと最も勢いのあるインテルの対決を占うポイント (3ページ目)
【ルイス・エンリケが語ったその気質】
ただし、ルイス・エンリケはレアル・マドリードの選手でもあった。
彼がレアル・マドリードからバルサに移籍してきたシーズン(1996-97)だったと記憶する。ミックスゾーンで筆者がルイス・エンリケに話を聞くと、自分自身を「オレは"ガナドール"なんだ」とアピールした。「勝ちたくて、勝ちたくてどうしようもない選手」という意味だ。
ところが、直前に話を聞いた別の選手は、バルサというチームの特徴をこう語っていた。
「勝つことも大切だけれど、美しいサッカーをすることも同じくらい大切だ。そこがバルサの魅力でもあるし、弱みでもある。何が何でも勝とうとする気質ではない」
多くの選手が筆者に対し、異口同音にそう説明した。ルイス・エンリケにそのことを伝えると、「この日本人ライターに、そんなことをしゃべっちゃったのは誰?」と、ミックスゾーンに響き渡るような大声で、周囲の選手を問い詰めていた。そして、「そうなんだよ、それがレアル・マドリードとの違いなんだよ」と、嘆いてみせたのだった。
今回、バルサはインテル戦で、まさに「ガナドールではない姿」を露呈させた。ルイス・エンリケはいまごろ、バルサ気質ではなく元レアル・マドリードの選手らしい勝ち気をみなぎらせているに違いない。
決勝戦は1試合での決着だ。90分のなかでどちらが試合の流れにスムーズに乗るか。インテルはバルサとのセカンドレグに、ハイプレスという方法論で試合に臨んだ。5バックを組みながら、同時に前にも圧をかけてきた。守備的な態勢から攻撃的サッカーを仕掛けるという、理屈に反する、半分、無謀とも言える強引なサッカーでバルサに迫った。
前半のバルサはそれに屈し、試合の主導権を握られた。
PSGも準決勝のセカンドレグで、アーセナルに開始直後から猛烈なプレスを浴びた。ジャンルイジ・ドンナルンマ(イタリア代表)の神がかり的なセーブがなければ、そこで崩壊していた可能性もある。
5月31日(現地時間)の決勝戦。受けて立つのはどちらか。キックオフ直後の攻防に目を凝らしたい。
著者プロフィール
杉山茂樹 (すぎやましげき)
スポーツライター。静岡県出身。得意分野はサッカーでW杯取材は2022年カタール大会で11回連続。五輪も夏冬併せ9度取材。著書に『ドーハ以後』(文藝春秋)、『4-2-3-1』『バルサ対マンU』(光文社)、『3-4-3』(集英社)、『日本サッカー偏差値52』(じっぴコンパクト新書)、『「負け」に向き合う勇気』(星海社新書)、『監督図鑑』(廣済堂出版)、『36.4%のゴールはサイドから生まれる』(実業之日本社)など多数。
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