三笘薫のブライトンを率いる31歳のファビアン・ヒュルツェラー 無名の指揮官はどうしてプレミアリーグへ? (4ページ目)

  • 井川洋一●取材・文 text by Igawa Yoichi

【12試合中11試合で三笘薫を先発させている】

 ただしその采配とチームづくりを見る限り、いかなる強敵とも対等に勝負できている印象だ。トッテナムには前半に2点を、シティには1点を先行されながら、ハーフタイムの修正と指示によって逆転勝利を手繰り寄せているように。シティ戦後の会見では、どこを調整したのかと訊かれ、落ち着いた口調でこう答えている。

「前半は縦パスを急ぎすぎ、簡単に失うシーンが多かったので、辛抱しながらボールを回そうと選手に伝えた。ポゼッションで我慢できれば、ギャップが生まれてくるものだから。そして最適なタイミングでスペースを突けるようになり、それが前後半の大きな違いとなった。後半開始から投入したカルロス(・バレバ)は運動能力が高く、デュエルに強く、中盤を支配できる。彼の影響もあり、ボールの保持に関わらず、チーム全体のインテンシティが上がったことも大きい」

 三笘薫についてはプレミアリーグ12試合のうち11試合に先発させていることからも、信頼を置いているのがわかる。昨季までのチームを率いたロベルト・デ・ゼルビ前監督が築いたポゼッションスタイルに、新指揮官が「最適なバランス」を加えようとしている今のチームでは、三笘もよりタフに走っている印象だ。守備時の健闘はもちろん、攻撃時に周囲と連係する際も、以前よりダイナミズムを意識しているように見える。

「自分は選手たちと同じ言葉が話せる。それは利点だと思う」と言う新指揮官は、4歳下の三笘にとって、兄のような存在かもしれない。そしてどちらも、ブライトンに来るまでは、イングランドでほぼ無名だった。

 先見の明と先進的なスカウティングシステムを持つクラブでなければ、このふたりがプレミアリーグのチームで巡り合うこともなかっただろう。彼らが規模で大きく上回るビッグクラブとやり合い、時に食ってしまう様は、見ていて痛快この上ない。

 今季のブライトンも、実に興味深いチームだ。

著者プロフィール

  • 井川洋一

    井川洋一 (いがわ・よういち)

    スポーツライター、編集者、翻訳者、コーディネーター。学生時代にニューヨークで写真を学び、現地の情報誌でキャリアを歩み始める。帰国後、『サッカーダイジェスト』で記者兼編集者を務める間に英『PA Sport』通信から誘われ、香港へ転職。『UEFA.com日本語版』の編集責任者を7年間務めた。欧州や南米、アフリカなど世界中に幅広いネットワークを持ち、現在は様々なメディアに寄稿する。1978年、福岡県生まれ。

【画像】ブライトンほか 欧州サッカー今季注目16クラブの主要フォーメーション

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