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ワールドカップ得点王スキラッチが愛される理由 「差別」を笑顔ではねのけたその人生を悼む (2ページ目)

  • 利根川晶子●文 text by Tonegawa Akiko

【シチリア出身者への偏見】

 北の人間は、自分たちが稼いだ金が南に吸い取られていると言い、南の人間は、北の人間ばかりが優遇されていると思っている。北は南を「テッローネ(狂った土地)」と呼び、南は北の人間を「ポレントーネ(ポレンタ食い、ポレンタはトウモロコシの粉を練ったもので、北部ではよく食べられる)」と呼んで罵る。

 サッカーの世界では、よくサポーターの差別的チャントが問題になるが、イタリアの場合、この"差別"とは国内の差別、つまり北から南への差別であることも多い。なかでもイタリア最南端のシチリアは、どこの地域よりも特別な目で見られる。

 シチリアは眩しい太陽と青い海に囲まれた美しい島だ。しかし、光が強ければ強いほど、闇も濃くなる。その闇の部分がマフィアだ。シチリアの人は誇り高い。もともとはマフィアという集団も、何もしないお上に頼ることを潔しとしないシチリア人の気質から生まれたと言われているが、今はそれが彼らを苦しめている。イタリアではいつまでたってもシチリア=マフィアなのである。

 数年前、筆者はスキラッチの自伝を翻訳したが、それは「ファルコーネ事件」のシーンから始まっていた。1992年5月23日、マフィアの捜査をするために鳴り物入りでシチリアに送り込まれた判事ジョヴァンニ・ファルコーネが、パレルモの高速道路に仕掛けられた爆弾で殺された。そしてユベントスの一員として試合前のホテルに宿泊していたスキラッチを、当時の監督ジョヴァンニ・トラパットーニは「お前たちが判事を殺した」と責めるのだった。

 実際、北のユベントスに移籍してから、シチリア人のスキラッチは多くの差別にあってきた。ユベンティーノ(ユベントスのファン)も彼の加入に対し、とても冷ややかだった。南の人間は、ユベントスにはふさわしくないと思われていた。

 スキラッチの話によると、朝起きると「テッローネ、南に帰れ」という落書きが家の壁に書かれていることもしばしばだったし、彼が初めてイタリア代表に選ばれた時も「スキラッチが代表? そう、アフリカ代表だ(北の人間が南の人間を中傷する際、"イタリアでなくアフリカ"と言うのは常套句)」との文字があったという。

 スキラッチは、ゴールを決めることだけが、彼らを納得させる唯一の方法だと思っていたようだ。

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