EURO2012はスペインが快挙達成、2016はポルトガルが番狂わせ...名場面は続く (2ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki

【現状を憂うしかないEURO2012の記憶】

 ただし、それは前回のEURO2008からすでに始まっている傾向だった。

 日本がW杯初出場を決めた1998年フランスW杯には、10万人もの日本人が現地を訪れている。2006年のドイツW杯も観戦熱は旺盛だった。日本のサポーターは世界的に見ても多いほうだった。ポルトガルで行なわれたEURO2004しかり。日本人の観戦者は出場していない国のなかでは断トツ一番の多さだった。

 EURO2008は、それが下り坂を迎えた瞬間だった。続く2010年W杯は南アフリカ、そしてこのEURO2012と、日本人が行きにくい場所で2大イベントは開催されたので、その数の激減に問題意識を抱くことはなかった。さらに2年後の2014年W杯の舞台はブラジルだ。サッカーの本場で開催されるW杯を観戦してみたいとの声は一瞬、高まったが、実際に現地に足を運んだサポーターは決して多くはなかった。とはいえ地球の真裏だ。他国のサポーターとの比較において、特段、少なさが顕著だったわけではない。

 それだけに、2018年ロシアW杯のスタンド風景はショッキングに映った。日本の初戦、コロンビア戦でスタンドを占めたのはコロンビア人サポーター。その数は2万5000人と言われた。日本人サポは辛うじて塊になっていたという程度だった。サポーターの数では出場32カ国中、ベスト16に遠く及んでいなかった。

 その2年前に行なわれたEURO2016はフランスが舞台だった。いやでも10万人の日本人が訪れた18年前と比べざるを得ない。海外サッカーへの関心が低下したのではないだろう。外国に足を運び、現地でサッカーを観戦しようとする意欲が低下したのだ。このサッカーファンの現状は、日本社会の現状を示すものでもある。

 EURO2024は、2006年W杯の舞台と重なる。比較するにはわかりやすいイベントだ。「18年前の日本人は元気だった」と述懐することになりそうである。サポーターの数が激減するなか、日本の選手は欧州でよく頑張っている。そんな見立ても大いにできる。

 EURO2012で優勝したのはスペインで、EURO2008、2010年の南アフリカW杯に続く3大会連続優勝という快挙だった。一時代を築いたことを世に知らしめる優勝だった。

 だが、この大会をいま思い出すと気が滅入る。当時の写真を見ると、現状を憂うしかない。
 
 たとえば、優勝したスペインが準々決勝・フランス戦と準決勝・ポルトガル戦を戦ったドネツクのドンバスアレーナだ。最新式スタジアムとして抜群の観戦環境を我々に提供したスタジアムである。筆者はその魅力をせっせとカメラに収めたものだが、ニュースを見ていて言葉を失った。遺体の安置場所になっていると報じられたのだ。

 12年前、スタジアムの周りに広がる草原のようなスペースは、各国サポーターが開放的なムードを満喫し、交流を深める場所だった。だが現在、その一帯には多くの戦車が乗り入れ、景色を一変させていた。滞在したホテル、入ったレストラン、メディアセンターで世話になったボランティア......数々の記憶が蘇るたびに心配になる。

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