JベストGK高丘陽平、横浜F・マリノスからMLS挑戦の決断を語る。「迷いもありましたが...、今回の挑戦にかけるべきじゃないかって」
昨年4月、鹿島アントラーズとの敵地戦だった。日本代表FWの上田綺世がひとり抜け出し、横浜F・マリノスのGKと1対1になっている。
「これ、股じゃん?」
その刹那、GK高丘陽平(26歳)は、啓示を受けたように急いで股を閉じた。上田のシュートへの入り方、ボールの位置、打つまでの表情、左足の振り方、すべてを瞬間的に分析した結果だった。何より、前年2021年8月の試合で、股を抜かれてシュートを決められた映像が頭に残っていた。案の定、股抜き狙いだったシュートをブロックした。
そのシュートストップは、高丘の成長・進化を象徴していた。
「何かひとつが変わった、というのはないんです」
高丘はそう説明している。
「ただ、たとえば反復練習ってよく言いますけど、本当のところ、反復練習ってないんですよ。毎回、少しずつ違う。重心をわずかに変化させ、足の位置も変えて、と微調整を繰り返していて、自分にしかわからない感覚の違いで改善させているんです」
その小さな積み重ねが、「2022年Jリーグベストイレブン賞」に結びついたのだろう。横浜FMで優勝GKにも輝いた。そして現状に甘んじなかった。
高丘はキャンプ後に日本を離れることを決断し、MLSのバンクーバー・ホワイトキャップスと契約を結んでいる。日本人GKが海外から実力を評価されてオファーを受ける。それはひとつの勲章と言えるだろう。ポゼッション志向のチームだけに、リベロプレーもできる高丘に白羽の矢が立った。
「最初は迷いもありましたが......。海外のクラブ関係者が、日本人の他の誰でもなく、自分のプレーを評価して必要として、それだけの熱も感じた。今回の挑戦にかけるべきじゃないかって、思うようになりました」
世界に羽ばたくJリーグナンバーワンGKの肖像とは?
横浜F・マリノスからバンクーバー・ホワイトキャップスへの移籍が発表された高丘陽平この記事に関連する写真を見る 高丘は体格的に恵まれたGKではない。10代から期待されたルーキーというわけでもなく、「足技の技量はあるけど......」という一芸の選手で終わってもおかしくはなかった。プロ入りした初めてのキャンプでは、「プロでやっていけるのか」とユースとトッププロの差に本人も愕然としたという。
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著者プロフィール
小宮良之 (こみやよしゆき)
スポーツライター。1972年生まれ、横浜出身。大学卒業後にバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)、『アンチ・ドロップアウト』(集英社)など。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。パリ五輪ではバレーボールを中心に取材。