カタールW杯でも優勝候補の前回王者フランス。エムバペ、ベンゼマ、グリーズマンら多様な選手を共存させる「スタイルのない」チーム (2ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

多様な選手たちを一気に組み上げる

 2018年に二度目の優勝を成し遂げたレ・ブルーは1998年の後継型だ。多様な選手たちを束ねる手法が似ている。1998年のチームでキャプテンだったデシャンは監督となって、1998年時のエメ・ジャケ監督のエッセンスを採り入れている。

 パワーとスピードに優れた黒人、テクニカルなマグレブ(北西アフリカ)など、異なる特徴を持つ個を束ねるにあたって1つのスタイルに固執しない。原理原則はあるものの、多様な素材を多様なままで共存させるやり方である。

 1998年のジャケ監督はユーロからワールドカップまでの2年間で、同じメンバーによる同じシステムを使ったことがなかった。毎回、選手が違うかシステムが違っていた。熟成して右肩上がりに強くするといった方針を採っていない。

 1つの最強チームではなく、いくつかの違うチームを作ろうとしていた。1つの型に集約されたチームは、勝ちパターンがあるかわりに負けパターンもできる。ジャケ監督の狙いは、どうなっても勝負になる対応力を持ったチームで、結果的にフランスは非常に負けにくいチームになっていた。

 デシャン監督は同じポジションに同じタイプの選手を選んでいない。速さが武器なら一番速い者だけ。二番手を用意しない。レギュラーによる最強チームと、それによく似た二番手チームという編成ではなく、なるべく別々の特徴を持つ選手を集めている。

 ロシアW杯の時、高さと強さのオリビエ・ジルーに代わってセンターフォワードに入ったのは、キリアン・エムバペやアントワーヌ・グリーズマンだった。小柄で運動量豊富なボールハンター、エンゴロ・カンテと交代するのは、長身のスティーブン・エンゾンジだった。多様性を生かして対応力のあるチームを作る点は、ジャケ監督を踏襲している。

 一定のスタイルに合わせて選手を選抜するのではなく、多様な個性を集めて対応力をテストし、直前に組み上げる。ロシアW杯でチームがまとまったのは、大会期間中だった。これはフランスの強みであり弱みでもある。

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