旗手怜央が試合前に手に取る大切な本。「自分の考え方を整理し、再認識する一助になっている」 (2ページ目)

  • text by Harada Daisuke
  • photo by Getty Images

高校で出会った一冊の本

 僕らの世代にはその一冊が手渡されると、読んで印象に残った項目について、自分が感じたことや自分の考えを書いて、提出するようにと言われた。いわゆる読書感想文というやつだ。

 ページを開いてみると、文字がぎっしりと書かれたものではなく、30歳の若さで亡くなったという吉田松陰の思想がひと言、載っていて、それに対する訳、すなわち解説が端的に綴られていた。

 高校1年生だった当時の自分は、まだ読書というものの必要性を感じていなかったのと、この本の内容が心に刺さらなかったため、途中まで読むと、適当な言葉を選び、そして適当な理由を書いて提出した。

 だけど、それからしばらく経ったある日、再び、その本を手に取ってみた。すると、書かれている思想やその解説が心に響くようになっていた。

 すべてを紹介できないので、一節を紹介したい。『覚悟の磨き方』は「MIND」「LEADER-SHIP」「VISION」「WISDOM」「FELLOW」「SPIRIT」の6項目に分かれて綴られている。そのなかの「MIND」には次のような思想が紹介されている。

 得を考えるのが損――『覚悟の磨き方 超訳 吉田松陰』(サンクチュアリ出版刊より引用)。

 解説には、結果を考えるのではなく、それに対して全力を出せたかどうかを振り返るという趣旨が書かれていた。

 まさに、自分自身のプレーに置き換えることができた。プロサッカー選手である以上、ゴールやアシストという目に見える結果は、もちろん大切だし、意識もしている。だけど、そこだけを基準にするのではなく、その結果を残すために、自分がどう向き合っていくか、どう取り組んでいくか、という過程が大事だと考えている。

 全力を出しきっていれば、結果に対して悔いはないし、それでも結果が出なければ、「さらに」「もっと」と思うこともできるからだ。

「VISION」すなわち「志」の項では、『ひとつのことに狂え』とあり、そうした精神状態は狂気であり、それだけに幸せなことだと解説されている。

 サッカーをはじめた時から今まで、自分は底辺から駆け上ってきたと思っている。子どもの時も特別に足が速かったわけでもなければ、体が大きかったわけでも、強かったわけでもなかった。ましてや技術も最初から高かったわけではなく、ひとつひとつのことに目を向け、やり続ける能力があったから、今の自分があると自負している。

 特徴がなかった自分が、唯一、持っていた能力こそが「ひとつのことに狂え」という、まさに狂気というか努力で、そこは自分の支えになっている。

 あの時、頑張ったから、やり続けてきたから今がある。

 この先も頑張ったからといって成功できる保証はないけど、今までの自分があるから、そこに向けて苦しい時も、「また」もしくは「もうちょっと」と頑張ることもできる。

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