レアル・マドリード栄光の歴史は「スター」に依存する戦い方。戦術が最先端である必要がない

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

欧州サッカー最新戦術事情 
第6回:レアル・マドリード

日々進化していく現代サッカーの戦術を、ヨーロッパの強豪チームの戦いを基に見ていく連載。第6回は、レアル・マドリードを取り上げる。代々スター選手の活躍で栄光をつないできたチームだ。その戦い方を現在のプレーぶりから見ていく。

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【戦術が最先端である必要がない】

 レアル・マドリードは、たとえばマンチェスター・シティのような戦術的な尖り方はしていない。あくまで選手のクオリティーありきである。ただ、シティと比べて、そんなに大きく違っているわけでもないのかもしれない。

 サイドのトライアングルの作り方は、レアルとシティに違いはない。

 左サイドなら、レアルはヴィニシウス・ジュニオール、フェルラン・メンディ、トニ・クロースが三角形を作る。タッチラインに開くのは左サイドバック(SB)のメンディで、その前方のハーフスペースか外にヴィニシウス。2人の斜めうしろでクロースがサポートする。3人の位置関係はシティも同じで、そこにいる選手のポジションが違うだけだ。

 シティなら、サイドへ張るのはインサイドハーフのケビン・デ・ブライネで、後方支援が左SBのジョアン・カンセロになる。左ウイングが最先端なのは同じだが、残りの2人のポジションが違うのだ。

 ポジションのとり方は、レアルのほうがオーソドックスに見えるだろう。シティのほうが珍しい配置であり、戦術的には新しい。シティがSBをインサイドに移動させている理由として、相手のカウンターアタックへの防御ラインをより守備力のある選手で形成したいという狙いが感じられる。カンセロ、ロドリ、カイル・ウォーカーの3人が、攻撃の後方支援と被カウンター防御ラインとなっていて、レアルのクロース、カゼミーロ、ルカ・モドリッチより守備は強そうだ。

 一方、レアルはSBの位置は高いが大外レーンの上下動、MFのクロースもインサイドハーフとしての上下動にすぎない。ただ、新しいかどうかを別にすれば、少なくとも攻撃の機能性に差はない。3人の位置関係は同じで役割も同じ。オリジナルのポジションが違っているだけだ。

 3人のレーン互換性は確かにシティのほうが柔軟だが、レアルにはクロースの戦術眼の確かさと、一発でサイドを変えられる技術がある。トライアングルの後方に位置してコントロールする力量では、カンセロよりクロースのほうが1枚上だろう。右のウォーカーとモドリッチの比較なら、モドリッチに軍配が上がる。

 ただし、シティならデ・ブライネがイルカイ・ギュンドアンに代わり、カンセロがオレクサンドル・ジンチェンコになっても同じように機能するが、クロースとモドリッチがいないレアルは違うチームになってしまう。ここは「人」への依存度が大きいレアルの弱みだ。だが、ベストメンバーを組むかぎり問題はない。戦術が最先端である必要はないわけだ。

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