メッシと代表に熱狂するアルゼンチン。カタールW杯への強い自信は吉か凶か

  • リカルド・セティオン●文 text by Ricardo Setyon
  • 利根川晶子●翻訳 translation by Tonegawa Akiko

強豪国のカタールW杯(3)~アルゼンチン

 アルゼンチンは今、メディアもサポーターも巻き込んで代表熱に浮かれている。批判や不満はほとんど聞かれない。この相思相愛ぶりは、アルゼンチンサッカーの歴史のなかでも、まれなことだろう。ディエゴ・マラドーナの時代でさえ、なにかしら不協和音が聞こえてきたものだが、今回はほぼ皆無。誰もが代表チームを愛し、熱狂している。

 アルゼンチン代表は1993年のコパ・アメリカを制して以来、実に28年間、国際的な大会で優勝することができなかった。世界最高のリオネル・メッシ(パリ・サンジェルマン)という選手を擁し、ヨーロッパのトップチームでスターとして活躍している選手が数多くいるというのに、呪いか何かをかけられたかのように、何も勝ち取ることができなかった。しかし今年7月、アルゼンチンはついにコパ・アメリカのタイトルを手に入れた。

 この勝利がアルゼンチンの空気を一挙に変えてしまった。

 今やチームはやる気に満ち、エネルギーと自信を取り戻し、最高の状態にある。不満たらたらだったメディアは絶賛し、メッシも笑顔でプレーするようになった。これはメッシの代表での初タイトルでもあった。「クラブチームでは勝つのに、代表では何もしない」という批判はすべて消え去った。

コパ・アメリカの優勝で自信を取り戻したリオネル・メッシ photo by AP/AFLOコパ・アメリカの優勝で自信を取り戻したリオネル・メッシ photo by AP/AFLOこの記事に関連する写真を見る この勝利はメッシの心に安寧をもたらした。「代表を辞めたい」と言い続けていたメッシが今は、かつてバルセロナでプレーしていた時のように幸せそうに代表でボールを蹴っている。そんな効果もあってからか、アルゼンチンは南米予選を無敗で戦い、早々にW杯出場権を獲得した。ここ27試合は一度も負けていない。

 アルゼンチンでは今、代表チームのことを、愛情をこめて「スカロネタ」と呼ぶ。訳すとすれば「スカローニ号」とでもなろうか。もちろん、代表監督リオネル・スカローニに由来する。

 2018年7月、ロシアW杯ベスト16敗退の責任をとって代表監督を退いたホルヘ・サンパオリに代わり、その座に就いたのが、アシスタントコーチを務めていたスカローニだった。それまで監督経験はなく、当初は次が見つかるまでの"つなぎ"と目されていたが、その契約はどんどん延長され、ついにはW杯を委ねられるまでになった。その理由は、メッシをはじめとする代表の選手たちの心を掌握したからだ。

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