イングランドのケインが見せた「謎の感覚」。ゴール前で意外な器用さを発揮する (2ページ目)

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

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 するとミュラーはまたも自信満々にこう言ったのだ。

「20%ぐらいだな」

 打率2割でも、サッカーの点取り屋には高い確率なのかもしれない。ただ、その時は「ずいぶん低いんだな」と少々拍子抜けしたものだ。

 ケインのポジショニングは確信に満ちていた。「ボールはあそこにしか来ない」と言っていたミュラーと同じだ。実際にはそれでも8割は外すわけだが、ボールが来てくれれば大当たりではある。ケインも自分の「正解」に従ってあのようにしたに違いない。本当にあそこに来ると確信していたのか、来ればフリーだと考えたのかはわからない。

 どちらにしろ「正解」はあるようでないわけだが、決めたことがすべてだ。適当なのではない。ただ、それで8回外しても平気な人が真のストライカーなのだろう。

<ギリギリでプレーを変えられる>

 ウクライナ戦の先制点もケインのシュートだった。開始4分、左サイドからラヒーム・スターリングがカットインしてスルーパス。裏へ抜け出たケインと飛び出したGKの中間あたりにボールは転がっていた。

 ケインは右足を思い切り伸ばし、スライディングしながらシュート。至近距離まで来ていたGKにボールが当たったが、そのままゴールインしている。

 技ありのシュートだった。ケインは右足を伸ばしながら足首を返して、ボールが少し浮くように蹴っていた。浮いていたから、GKに当たってもゴールに入れることができた。グラウンダーだったら防がれていただろう。

 188㎝の長身と長いリーチが生み出した得点とも言えるが、最後のタッチの工夫が決定的だった。ケインは大きなFWだが、フィジカルで押し切るタイプではない。ボールコントロールやパスもそうで、タッチの直前に判断を変えられるのが特徴だ。

 ポジションは違うけれども、スペインのセルヒオ・ブスケツとこの点はよく似ている。ブスケツも右足を振りながら、最後の瞬間に蹴る方向を変えられる。小柄な選手が持っているようなキレはない代わりに、動作がゆったりして動く幅が大きい分、それ自体がフェイントになっていて、相手が動けば逆を突けるのだ。

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