イングランド「負け犬魂」払拭。難攻不落のDFを武器に25年前のリベンジへ (3ページ目)

  • 中山淳●取材・文 text by Nakayama Atsushi
  • photo by AFLO

 たしかにスペクタクルとは言えないが、手堅さと効率性はビッグトーナメントを勝ち抜くうえで重要な要素となる。だからこそ、決勝までの道のりも危なげなかった。その姿は、まるで2018年W杯を制したフランス代表を彷彿とさせる。

 それを裏づけるかのように、指揮を執るサウスゲート監督の采配も実に手堅い。1点リードで迎えた延長後半、あえて途中出場のグリーリッシュを下げてキーラン・トリッピアーを送り出し、3−4−2−1にシステム変更したその采配は、まさに隙のない今回のチームを象徴するものだった。

 思い出されるのはユーロ96の準決勝で、地元イングランドがドイツにPK戦の末に涙を呑んだ日の記憶だ。あの夜、ウェンブリーから宿泊先ホテルに帰るために乗った地下鉄車両内で、悲しみにくれていた青年が涙を流しながらこちらに向かって叫んだひと言は、今でもはっきりと覚えている。

「これだけは覚えておけ! テリーは天才だってな」

 地元開催の1966年W杯で優勝して以来、ビッグトーナメントでは毎回ファンの期待に応えられずにいたイングランド代表は、ある種の"負け犬魂"のようなものが染みついていた。その大会のテーマ曲にもなった「スリー・ライオンズ」は、皮肉交じりにその歴史を歌った応援ソングでもあった。

 しかし、その大会ではテリー・ヴェナブルズ監督がベスト4に導いたことで、現地イングランドは空前の盛り上がりを見せ、多くの人々が熱狂した。おそらくその青年が流していた涙も、負けた悲しみよりも、感動と充実感によるものだと思う。

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 あれから25年が経過した今回のユーロで、準ホスト国とも言えるイングランド国内はあの時以上の熱狂に包まれるはずだ。しかも、チームを初のファイナルに導いたのは、25年前の準決勝のPK戦でミスした5人目のキッカー、現指揮官サウスゲートだ。それも含めて、当時では想像もつかなかったドラマチックなストーリーも出来上がりつつある。

 果たして、天才テリーを超えたサウスゲートは初優勝に導けるのか。7月11日にウェンブリーで行なわれるイタリアとの決勝戦は、サッカーの母国にとっての一大決戦になる。

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