サラーはなぜリバプールで爆発したのか。ドリブルの秘密とチームとの幸福な関係

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

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サッカースターの技術・戦術解剖
第49回 モハメド・サラー

<プレミアリーグのシーズン最多得点記録保持者>

 エジプトの育成チームでは、左サイドバックとしてプレーし始めた。4-0で勝った試合のあとで、サラーは悔し涙を流していたという。コーチが理由を聞くと「シュートを外してしまったから」と答えた。サラーの言葉を聞いたコーチはポジションをFWへ変えた。

スピードとテクニックと得点感覚で、ゴールを量産するモハメド・サラースピードとテクニックと得点感覚で、ゴールを量産するモハメド・サラー モハメド・サラー(リバプール)は、プレミアリーグのシーズン最多得点の記録保持者だ。2017-18シーズンの32ゴールは、クリスティアーノ・ロナウド(ポルトガル)、アラン・シアラー(イングランド)、ルイス・スアレス(ウルグアイ)、ロビン・ファンペルシー(オランダ)、ティエリ・アンリ(フランス)を超える大記録である。

 左足でファーポストへ巻いていくシュート、GKとの1対1を冷静に決め、ヘディングもボレーもある。決まった形のゴールばかりでは、32ゴールには届かない。サラーはあらゆる形のゴールを決めている。もともと得点力はあったが、リバプールで爆発したのは本人によると「これほどゴールに近い位置でプレーしたことがかつてなかったから」だそうだ。

"エジプトのメッシ"と呼ばれるとおりで、プレーぶりはリオネル・メッシ(アルゼンチン)とよく似ている。小柄だが飛びきり速く、卓越したボールテクニックと得点感覚がある。左利きも共通点。直線のスピードは、たぶんメッシより速いだろう。

 トップスピードでも上体があまり動かず、極端に前傾姿勢にならない。上体が立っているので下半身は柔軟に使える。ペナルティーエリアの中、スペースが限定されていても相手を難なく外していけるのは、初速の速さもあるとはいえ、ステップワークが細かくボールタッチが繊細だからだ。

 例えば、ボックスの右側でキープした時には細かくステップを踏みかえながら、DFが気づかないうちに右足を前に出している。DFはボールのあるサラーの左足に注視しているから、サラーに正対しているつもりでいるが、正対しているのはボールに対してであって、すでにサラーの右足は半歩前に出ているのだ。

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