海外記者から見た東日本大震災後の日本。サッカー日本代表が果たしていた役割 (3ページ目)
テレビのサッカー中継が増えてからというもの、代表と国家の結びつきはさらに強まっている。多くの国で、最も多くの人が見るテレビ番組はサッカーの代表の試合だ。オランダでは昨年(2010年)のワールドカップで代表が戦った準決勝と決勝の少なくとも一部を見た国民が、全体の4分の3にのぼった。日本でもワールドカップで代表が戦っているときほど、多くの人が同じことを同時にしている時間はないだろう。
そこから一体感が生まれる。サッカーの主要大会の期間中は、国じゅうで多くの人が同じことをする。試合を見て、職場や電車の中でその話をする。ほとんどすべての人が国の一部になったかのように感じる。
ふだんは孤独を感じている人たちまで、この渦に巻き込まれる。驚いたことに、国の一体感は自殺件数にしっかり表れる。ステファン・シマンスキーと僕は共著『「ジャパン」はなぜ負けるのか』で、ヨーロッパの国々では代表がワールドカップや欧州選手権を戦っているときに自殺率が下がることを示した。代表が大きな大会を戦っている6月は、戦っていない6月に比べて、平均して自殺者が少ないのだ。
この傾向は、僕たちが分析した12カ国のうち10カ国で確認できた。たとえば、1992年の6月にデンマークは欧州選手権で優勝した。この月、デンマークでの男性の自殺者は54人で、1978年以降の6月で最も少なかった。女性の自殺者は28人で、データを入手できた期間のなかでは1991年と並んで最も少なかった。ヨーロッパ全体でみると、サッカーの主要大会は数百人の命を「救っている」といえそうだ。
これほど自殺を抑止する力を持つ出来事は、ほかには国家的な悲劇だけだと、米フロリダ州立大学教授で『人はなぜ自殺するか』の著書があるトーマス・ジョイナーは言う。最もわかりやすい例をあげれば、1963年にジョン・F・ケネディ大統領が暗殺された直後の1週間(アメリカが悲しみに暮れるとともに「ひとつ」になった日々だ)には、調査対象の29都市で自殺が1件もなかった。やはりアメリカがひとつになった9・11同時多発テロの直後には、「自殺防止ホットライン」にかかってきた電話が通常の半数の1日300件程度に減った。「史上最少」の数字だったと、ジョイナーは書いている。
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