「狂わないとできない」。バルサのGKが背負わされる重い十字架
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「たった一度ミスしただけで、背中に"非難の土砂降り"を浴びる」
バルセロナが最強を誇った時代のゴールキーパー、ビクトル・バルデスはそう吐露している。
「その罵声は、ファンが発するものだけではない。手厳しい監督だったり、心情を理解できないチームメイトだったりすることもある。たとえ言葉にしなくても、態度で『戦犯はおまえだよ』という気持ちが突き刺さってくることもあるよ。ゴールキーパーは孤独を生きている。他の選手たちが理解できない思いを抱えてね」
バルサは超攻撃的なスタイルを信奉してきただけに、GKのリスクは増える。ボールをつないでいるところを奪われるかもしれないし、総攻撃の裏をつかれ、1対1の場面を作られるかもしれない。それでも失点は失点であり、GKが矢面に立たされるのだ。
厳しい勝負を生き抜いたバルデスの言葉は重い。バルサでプレーするGKの十字架とは――。
バルセロナの現在の正GKマルク=アンドレ・テア・シュテーゲン バルサは世界でも特異なチームと言える。
ユース年代から一貫し、「ボールありき」の戦いを叩き込まれる。攻撃こそ防御なり。圧倒的にボールをつなぎ、運ぶことで優位に立ち、攻撃し続けるのがフィロソフィーだ。
必然的に、GKにもボールプレーヤーとしての性質が求められる。
「GKがリベロになることで、ボールプレーは完成する」
1990年代、バルサの始祖とも言えるヨハン・クライフは宣言し、積極的にリベロ的GKを登用した。足技を優先し、先発に起用したのだ。
その一号と言えるのが、アンドニ・スビサレータの控えとしてセカンドGKを数年間にわたって務めてきたカルレス・ブスケッツだった。1994-95シーズン、クラブが世代交代を進め、スビサレータが退団。ブスケッツは27歳でようやくファーストGKに抜擢された。その特徴は、バルサのフィールドプレーヤーとボール回しに混ざっても引けを取らない足技だった。下部組織「マシア」で育った次世代のバルサの象徴だった。
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