名将リッピが駆使した「新種のカテナチオ」には1−0がよく似合う

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by AFLO

サッカー名将列伝
第22回 マルチェロ・リッピ

革新的な戦術や魅力的なサッカー、無類の勝負強さで、見る者を熱くさせてきた、サッカー界の名将の仕事を紹介する。今回はユベントスやイタリア代表で一時代を築いたマルチェロ・リッピ監督。大舞台では苦戦もあったが、僅差の勝負を制して多くのタイトルを獲得した。葉巻をくわえたダンディな風貌、イタリア人らしい名将の軌跡を追う。

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<国内は無敵。CLは準優勝3回>

「もういいだろう。十分やった」

 マルチェロ・リッピが監督引退を発表したのが昨年11月。最後に率いたチームは中国代表だった。指導者としてのキャリアは37年におよぶ。

ユベントスやイタリア代表で数々のタイトルを獲得した、マルチェロ・リッピ監督ユベントスやイタリア代表で数々のタイトルを獲得した、マルチェロ・リッピ監督 名門ユベントスでセリエA優勝5回、イタリア代表を率いて2006年ワールドカップを獲った。チャンピオンズリーグ(CL)とワールドカップの両方を制した最初の監督だ(2番目はビセンテ・デル・ボスケ)。

 最初のユーベ時代にリーグ優勝3回、CL優勝。ジャンルカ・ビアリ、ファブリツィオ・ラバネッリ、アレッサンドロ・デル・ピエロ(以上イタリア)の強力3トップを擁した1995-96シーズンは、CL決勝でアヤックスをPK戦の末に破っている。

 その次の1996-97シーズンもユベントスはCL決勝へ進んだ。メンバーは入れ替わっていて、決勝はジネディーヌ・ジダン(フランス)、クリスティアン・ヴィエリ(イタリア)、アレン・ボクシッチ(クロアチア)が前線の3枚。デル・ピエロは交代出場だった。この時はドルトムントに敗れたのだが、優勝したシーズンよりもむしろこのユーベのほうが強力な印象があったくらいだ。

 1997-98のCLも決勝に進出している。実に3シーズン連続である。当時のユーベはそれも不思議でないヨーロッパのトップに君臨する強豪だった。しかし、この決勝もレアル・マドリードに敗れて優勝できなかった。

 リッピ監督とユベントスといえば、非常に勝負強い印象がある。圧倒的な点差で勝つわけではないが、1-0でも必ず勝つ手堅さがウリだったはずだ。ところがユベントスほどCL決勝で負けているチームもない。

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