スペイン代表の名物男がバーを営む地で見た、イラク戦争前夜のCL (2ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • 中島大介●写真 photo by Nakashima Daisuke

 サポーター曰く、スペインはアウェー観戦の地として人気が高く、中でもバレンシアは1、2を争うのだという。それは日本人である筆者も同感だった。季候はいいし、食事も美味い。

 メスタージャは街中にある。そして界隈の繁華街は夜が遅い。23時に試合が終わっても、レストランでゆっくり夕食が愉しめる。サッカーだけで1日が終わらないところが、このスタジアムの魅力だ。

 その内部の魅力に目を向けるならば、客席は急傾斜だ。着席した瞬間、鋭い視角に仰天させられる。35度以上なら「上々」。37度以上あれば「急傾斜」とは、筆者独自の分類になるが、メスタージャはそれ以上ある。40度に迫る欧州最強の視角だと思う。正面スタンドからバックスタンドを眺めると、壁に観衆がへばりついているように見える。

 ラファエル・ベニテスルが率いたバレンシアの当時のサッカーは、縦に速い一方で、サイドチェンジを駆使した展開力に富んでいた。ピッチを大きく使うそのサッカーは、鋭い視角を売りにするメスタージャの舞台によく映えた。アルゼンチンからやってきた小兵のMF、パブロ・アイマールがそこに絡むと、お洒落度もアップした。

 マノーロさんが経営するバルもメスタージャのすぐ近くにある。スペイン代表の試合になると「エスパーニャ! ドンドンドン」と太鼓を叩きながら応援のリーダー役を務める名物おじさんだ。

 最初にその存在を知ったのは、1982年スペインW杯で、マノーロさんは大会期間中、スペイン各地をヒッチハイクで回りながら、スペイン戦が行なわれる会場に駆けつけるという毎日を送っていた。テレビカメラが応援団長の旅の道中を常に追いかけていたので、マノーロさんがいまどこにいるか、日本人であるこちらまで気になっていた記憶がある。

 マノーロさんはキックオフの笛とともにスタンドに入っていく。そしてタイムアップの笛とともにお店に戻る。バルの壁には、これまで応援観戦してきた代表戦の写真が、ところ狭しと貼られていた。

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