2020.07.03

万能型FWベンゼマはダイエット成功で
「ジダン+ロナウド」に進化した

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

 結局、ベンゼマは純粋にヴァルブエナを助けようとしただけだったのだが、幼馴染みの友人に犯罪歴があったことから、疑いの目が向けられたという成り行きである。

 しかし、逮捕後に政府要人から「スポーツ選手は模範的であるべき。代表に居場所はない」などと発言があり、フランス協会も無期限活動停止処分を決める。ベンゼマはヴァルブエナを非難し、協会は「和を乱さないため」との理由でユーロ2016への招集を見送った。ディディエ・デシャン監督もこれを受け入れたため、ベンゼマは「人種差別主義者たちに屈した」と監督を批判し、フランス代表と決別することになってしまった。

 フランスのサッカーは、移民系の選手たちで成り立っていると言っていい。そして移民系は都市郊外に集中している。比較的家賃が安く、仕事のある都市に近い郊外は、やがて移民ばかりが住む街として荒んでいった。

 アネルカ、アンリ、ベンゼマなど、ほとんどの移民系選手は都市郊外出身者だ。彼らの幼馴染みに犯罪歴があっても、珍しくもないと言っていい。清廉潔白、一点の染みもない模範生を求めるほうが、世間知らずで無理な要求と言える。無実の身に降りかかった世間の冷たい仕打ちに対して、「人種差別」とベンゼマは激しく反発した。10年南アフリカW杯で起きた、フランス代表内の移民系選手の一斉蜂起による分断と、根は同じである。

 ベンゼマと同じアルジェリアにルーツを持ち、ベルベル人の血をひくジダン監督がレアル・マドリードにいるのは、ベンゼマにとっては幸運なのかもしれない。ベンゼマが不調だった時期、ジダンは「彼は才能だ。そしてレアル・マドリードの才能は勝つべきである」と庇った。ジダンは自らの出自を巧みに"漂白"してきたが、ベンゼマの悲しみと怒りを共有しているに違いないのだ。

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