2020.06.19

フランスサッカーMFの系譜。
代々受け継がれる「水を運ぶ」力がスゴイ

  • 西部謙司●文 text by Nishibe Kenji
  • photo by Getty Images

サッカースターの技術・戦術解剖
第13回 ブレーズ・マテュイディ

<水を運ぶ人>

 フランスサッカーでは以前、なぜか黒人はスイーパーと決まっていた。レイモン・ドメネク(2004-10年フランス代表監督)によると、それを変えたのは彼とジェラール・ウリエ(1992-93年フランス代表監督)が協会技術委員会に入ってからだったそうだ。ティエリ・アンリ、ニコラ・アネルカなど、1990年代後半から2000年代に入り、黒人選手がアタッカーに起用される流れができた。

豊富な運動量とスピードで、攻守に貢献するマテュイディ。その役割はフランスサッカーの伝統の一つだ リベロが黒人だったのは、守備の「保険」としてだ。GKの前にスピード、パワー、高さのある選手を置けば失点を防ぐのに有利という考え方である。1980年代のフランス代表のリベロ、マリユス・トレゾールはその典型だった。

 ただ、黒人がすべてリベロだったわけではない。82年W杯(ベスト4)でトレゾールとともにプレーしたジャン・ティガナはMFだ。ミッシェル・プラティ、アラン・ジレス、ベルナール・ジャンジニと組んだ中盤は、華麗なパスワークから「シャンパン・フットボール」と呼ばれた。ティガナは84年ヨーロッパ選手権(優勝)、86年W杯(ベスト4)でも中心選手のひとりとして活躍。所属チームのボルドーでは、ジレスと名コンビを組んでいた。

 小柄で細身だったディガナは、細い足を駆ってフィールドを走り回り、巧みなテクニックでパスワークを支えた。このタイプの黒人選手の系譜は、その後もつづいていく。2000年代にレアル・マドリードやチェルシーで活躍したクロード・マケレレがその代表だが、現在はブレーズ・マテュイディ(ユベントス)やエンゴロ・カンテ(チェルシー)に引き継がれている。センターバックに起用される巨人とは異なり、およそ背は低く体格も華奢だがスピードに恵まれ、無尽蔵のスタミナでどこまでも走りつづけられる。

 フランスの「水を運ぶ人」は黒人が定番だ。水を運ぶ人はマイスターとの対比である。徒弟制度が発達していたヨーロッパで、たとえば煉瓦職人は煉瓦を積むわけだが、そのためには水が必要だ。親方が水まで汲みに行っているのでは、あまりにも作業効率が悪い。だから水を運ぶ人が要る。サッカーでも「水を運ぶ人」はよく使われる表現になっている。