CB2人退場のアヤックス。ラスト十数分で見せた攻撃サッカーの神髄 (3ページ目)

  • 杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
  • photo by Getty Images

 ここまででも十分に面白かった。大荒れの展開に酔いしれたものだが、この試合最大の見どころ、感激せずにはいられなかった場面は、この後に控えていた。

 9人と言っても、フィールドプレーヤーは8人だ。10対8。圧倒的劣勢の状況下に陥れば、普通ならゴール前を固めようとする。しかも残りは十数分。逃げ切りを図ろうとするものだ。

 ところが、だ。アヤックスは前に出た。最終ラインを下げず、高い位置からプレスをかけた。ボールを奪っては細かくパスをつなぎ、シュートも3本放っている。86分にエドソン・アルバレス(CBの!)がゴール正面から打ち込んだシュートは、チェルシーGKケパのビッグセーブがなかったら決勝ゴールにつながっていた。

 もちろんアヤックスもその間、チェルシーに攻められていた。バチュアイ、ハドソン・オドイに決定的なシュートを浴びていた。だが、攻撃は最大の守備と言わんばかりに、怯まず果敢に前に出た。時間稼ぎさえしなかった。ラグビー的な敢闘精神で対抗した。日本サッカー界に足りないものを見せつけてくれたという言い方もできる。

 アヤックスにとっては1ー4から4ー4にされた試合だが、試合後、ショックが大きかったのはどちらかと想像すれば、チェルシーではなかったのか。

 アヤックスと言えば、攻撃的サッカーを伝統とするクラブとして知られるが、エリク・テン・ハーグ監督率いる現在のアヤックスは、歴代のチームの中でも出色だ。

 比較したくなるのは、同日、ホームでスラビア・プラハと対戦し、きわめて退屈な0-0を演じてしまったバルサだ。アヤックスから移籍したフレンキー・デ・ヨングは上等なプレーを見せていたが、アヤックスから引き抜くべき人材は彼以外にもいたはずと言いたくなる。

 エリク・テン・ハーグ。クライフのDNAを受け継ぐバルサの監督には、エルネスト・バルベルデより、こちらの方が遥かにふさわしい。思わずそう言いたくなるアヤックスの、サッカーの理想が凝縮されたチェルシー戦ラスト十数分間の戦いぶりだった。

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