シメオネ主義炸裂。アトレティコ「この10年で最低の試合」でも勝つ (2ページ目)

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

 後半が始まっても、プレーは改善していない。ひとつ明らかなのは、サイドで起点になれるアタッカーがいなかったことだろう。センターMF的なキャラクターを持つ選手ばかりを並べ、動きに流れが出なかった。

「この10年で最低の試合だ!」

 番記者たちも、その起用法に苛立っていた。

 もっとも、シメオネはその布陣を意図的に用いていた。4人のセンターMFでバックラインの前の防御線を敷いていたのである。

「相手の戦いを研究したが、攻守の切り替えのところで苦しんでいた」

 シメオネはそう言う。相手のボールを中盤で奪い、カウンターに転じる布陣だった。確かに、攻め込むことはできなかったが、攻められてもいない。

 そして後半終盤、アトレティコが地力の差でジリジリと押し始める。71分にコケに代え、ストライカーのモラタを投入。76分にレバークーゼンの若きエース、カイ・ハヴェルツが交代すると、両者の"質量"に差が出た。そして79分だった。交代で入ったトマ・ルマールからレナン・ロディに展開。左サイドからのクロスを、エリア内に入ったモラタが頭で豪快に叩き込んだ。

 アトレティコは、交代カード3枚で試合を決めている。1-0の勝利は効率がよく、シメオネの作戦どおりとも言える。レバークーゼンに反撃の余力は残っていなかった。

 士気の高さで相手を打ち負かす。そのためにはたとえ不細工でも、まずは鉄壁の守備を固め、敵の弱みをつくのは定石だろう。シメオネは、サッカーに美しさなど求めない。彼にとっての究極の美しさは、勝利なのだ。

 決勝点が入る直前、象徴的シーンがあった。相手とのコンタクトプレーでモラタが倒される。ファウルの判定でもおかしくなかったが、この日の審判はプレーを流す傾向が強く、笛を吹いていない。それに対する怒りだったのか。モラタは猛然とプレスを仕掛け、相手のビルドアップを阻止。そうして敵を押し込んだところで、得点は生まれたのだ。

「外から見た人はいろいろなことを言う。でも、僕らはリーグ戦で首位と勝ち点差3だし、チャンピオンズも3試合で7ポイント。大事なのはどのように勝利するかよりも、実際に勝利を重ねること。サッカーは、今日のようにゴールひとつで劇的に変わるからね」

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