シメオネ主義炸裂。アトレティコ「この10年で最低の試合」でも勝つ

  • 小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki
  • photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

 ディエゴ・シメオネは、やや遅れて試合会見場に入ってきた。ロッカールームでどんな檄を飛ばしていたのか。激情の人だが、音もなく席に着いた。その表情は明るくも暗くもなく、自ら"色"を押し隠しているようだった。

 試合内容は低調を極めた。実は開幕以来、勝ち星は稼いでいるものの、調子は上がっていない。GKヤン・オブラクを中心にした守備は健在だが、ボールがつながらず、ゴールは不発。MFコケに対しては、辛辣なブーイングまで浴びせられた。終盤、途中出場のアルバロ・モラタのゴールがなかったら、叩かれていたはずだ。

「不安があるのは普通なことだ。チームは確実に成長しているが、改善点もある。最後のところ、そこの可能性を高めるためにするべきことはあるだろう。ゴールは自信を与えてくれる。勝つことで活気付く。その意味で、モラタのゴールはチームをひとつにする点で大きかった」

 シメオネは静かな声音で言っている。勝つことで見える景色があることを、指揮官は知っているのだ。

レバークーゼン戦で決勝ゴールを決めたアルバロ・モラタ(アトレティコ・マドリード)レバークーゼン戦で決勝ゴールを決めたアルバロ・モラタ(アトレティコ・マドリード) 10月22日、ワンダメトロポリターノ。チャンピオンズリーグ(CL)グループリーグ第3節、アトレティコ・マドリードはドイツのレバークーゼンを迎えていた。1勝1分けのアトレティコは、ユベントスとの首位争いを制するため、負けられなかった。週末のリーグ戦で、バレンシアに追いつかれ、勝ち点を落とした悪い流れを断ち切る必要もあったはずだ。

 しかし、アトレティコのプレーは重かった。選手同士の距離感が悪く、前に進めない。それぞれのポジションでノッキングを起こしていた。ポルトガル代表の新鋭、ジョアン・フェリックスがケガで不在の影響はあったが、もっと深刻な問題のようにも見えた。トーマス・パーテイ、サウール・ニゲス、コケという3人のMFがあっさりとボールを奪われ、カウンターを浴びているのだ。

「我々はコンパクトにプレーし、ほとんどチャンスを与えていない」

 レバークーゼンのペーター・ボス監督は語ったが、大げさではなかった。

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