圧巻のハット。「千両役者」ロナウドは一点の曇りなき欧州王座を狙う (3ページ目)

  • 井川洋一●取材・文 text by Igawa Yoichi
  • ムツ・カワモリ●撮影 photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

 すると、延長の可能性も感じられた88分、ネベスの見事なフィードをベルナルド・シウバがボックス右で優しくトラップし、中央に横パスを送る。ここに走り込んできたロナウドは、トップスピードのまま右足をミートさせ、勝ち越し点をマーク。さらに90分には、カウンターからグエデスのスルーパスを左で受けたロナウドが、ドルトムントのマヌエル・アカンジを子ども扱いするようにかわして、カットインから右足のシュートで力強くネットを揺らした。

 スタンドには無数のポルトガル国旗が振られ、『The White Stripes』の"Seven Nation Army"のメロディに合わせて、「オー、クリスティアーノ・ロナーウド!」と何度も連呼される。母国に帰ってきたスーパースターが、代表として自身7度目のハットトリックを達成。重要な一戦の勝利の立役者となった。

 前日の会見で、スイスのペトコビッチ監督は「ロナウドはケーキの上のチェリー(物事を完成させる最後のピース)。とはいえ、ポルトガルは一人の選手に依存しているチームではない。分析したところ、もっとも重要なのはロナウドの相棒のようだ」と言っていたが、フェリックスが不振に終わり、グエデスが最後の得点をアシストしたため、半分は外れ、半分は当たったということになるか。その敗軍の将は試合後、「私が言ったように、チェリーが違いを作ったね。(ロナウドは)4本シュートを放って、3ゴールを奪った」と脱帽した。

 ポルトガルのフェルナンド・サントス監督は、地元の記者に「ポルトガル語は形容詞が豊富です。あなたは今日のロナウドをどんな形容詞で表現しますか?」と聞かれ、「形容詞は無理だ。表現するなら、天才だ。アートの世界に天才がいるように、彼はフットボールの天才だ」と言って讃えた。

 時間があっという間に経過していった熱戦を制し、不世出の天才を擁するポルトガルが、またひとつ偉業に近づいた。

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