バイエルン退団のロッベン。オランダ人はその帰郷を願っている (2ページ目)

  • サイモン・クーパー●文 text by Simon Kuper
  • 森田浩之●訳 translation by Morita Hiroyuki

 よく知られていることだが、ロッベンはたいていのプレーを、わずか1種類の動きでやり続けている。21世紀のフットボール界に刻まれる技のひとつで、フランス語にはこれを表す「ル・ロッベン」というフレーズまである。

 ロッベンは右サイドを駆け上がり、ほんの一瞬、アウトサイドに出るかのようにフェイントをかける。しかしすぐインサイドに切れ込み、GKから遠いゴールのサイドに左足でシュートを打つ。

 相手DFはロッベンが何をするか知っているのだが、彼の動きが速いために、頭ではわかっていてもフェイントに引っかかる。ヨハン・クライフの有名な言葉を借りれば「私に普通に合わせてきたら、相手はすでに遅れている」という状況だ。

 ロッベンが2017年に代表を引退するまでの10年間ほど、オランダ代表は彼なしにはやってこられなかった。伝統の「トータル・フットボール」は機能しなくなり、最近のオランダ代表で最もいい試合の多くは、強固な守備と、ロッベンを経由する素早いカウンター攻撃によるものだった。

 ユーロ2008でイタリアとフランスに圧勝した試合、2010年ワールドカップのブラジル戦の後半、そして2014年ワールドカップでスペインに5-1で勝利したときの輝かしい28分間──。これらはいずれも、ロッベンがいなければ現実のものにならなかった。

 2010年のワールドカップで、ロッベンはオランダを決勝にまで導いた。まだ0-0だった試合の終盤、ロッベンはスペインのGKイケル・カシージャスと1対1になり、ゴールの隅をめがけてシュートを放った。カシージャスは脚を伸ばして、なんとかつま先でセーブした。

 後にオランダ代表の凋落が始まると、それまで代表が「ロッベン依存症」にかかっていたことがすっかり明らかになった。2014~17年のオランダ代表は、ロッベンが出場した試合の得点が、出場しなかった試合に比べて平均で約1点多い。

 僕を含めてオランダのファンは今、ロッベンが故郷の村に戻って、ひと休みできることを願っている。少なくとも、オランダ人選手らしくなかったかもしれない彼が、オランダに帰ってくることを。

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