欧州CLの達人が解析!「紙一重」で勝ち上がったトッテナムの長所 (3ページ目)
倉敷 どこの国のリーグでも総合力で他チームを凌駕し、高い完成度を誇るチームを作れるペップですが、ノックアウト形式の戦いにおいては肝心なところで敗退するケースが目立ちます。ペップは自己中心的な大エースという意味で使うプリマドンナタイプの選手をよく思っていない様子ですが、それゆえに大きなゲームを動かす手段に限界を感じることもあります。大きなギャンブルができる監督ではないし、スーパーなモチベーションを与える特別な言葉も近年は持ち合わせていない様子ですね。
中山 たしかにシティはマヌエル・ペジェグリーニ監督時代の2015-16シーズンに準決勝に進出していますけど、ペップのシティに限って言うとベスト8の壁をまだ破っていないんですね。バイエルン時代も3季連続ベスト4。ペップにとっては、なかなか厳しい現実ですね。
もちろん2試合を振り返ると、たしかに勝敗は紙一重だったとは思います。第1戦は1-0でホームのスパーズ、第2戦は4-3でシティが勝ちましたが、最後はアウェーゴールというギリギリの差でスパーズが勝ち上がったわけですから。それに、もし第1戦の序盤のPKをセルヒオ・アグエロが決めていれば、結果は違っていた可能性も十分にあったわけですし。
倉敷 慎重なペップがあの場面でアグエロにPKを任せたのは宝くじを買ったのだな、と思いました。最近チャンピオンズで優勝できないペップがこの先まで勝ち進めるかの運試し、なにかのプラスアルファを欲しがったのではないでしょうか。アグエロはPKをよく外します。他の人に蹴らせれば問題なかったところを、あえてアグエロで決めて運を引き寄せたかったけれど、結局、その小さな賭けに負けたところが勝敗の分かれ道だったように感じます。
もうひとつ、ペップのチームは中心選手のバイオリズム、好不調の波が他のチームより大きいように感じます。たとえば、今回はアイメリク・ラポルテがとても悪い状態で、第2戦では彼のミスがソン・フンミンの2ゴールの原因になりました。ソン・フンミンは現在のスパーズの勢いの象徴ですから彼に決めさせてはいけませんでしたね。
中山 たしかに現在のソン・フンミンは別格ですね。2列目の左右中央、それに2トップや1トップでもプレーできて、スピード、強さ、そして何より決定力がある。昨シーズンの彼にも進化を感じましたが、今シーズンはまた一段上のレベルに行った印象です。とくに第2戦の立ち上がりに先制された直後に、連続2ゴールを決めてスパーズが逆転したときには鳥肌が立ちました。戦前は打ち合いになったらシティに分があると見ていましたが、それを覆すきっかけを作ったのが、ソン・フンミンだったように思います。
倉敷 そうですね。その舞台を作ったマウリシオ・ポチェッティーノの采配も見事でしたね。
中山 今シーズンは新戦力の補強をしなかったにもかかわらず、ケガ人が続出するなかでよくぞここまでの成績を残していると感心させられます。とくに第2戦では、試合の局面ごとに判断して、果敢なベンチワークを見せていました。システムもスタートは中盤をひし形にした4-3-1-2でしたが、立ち上がりから打ち合いが続くなかでデレ・アリのところがザルになっていたのを見て、2-2の後に4-2-3-1に変更してデレ・アリをトップ下、ビクター・ワニャマとムサ・シソコのダブルボランチにして修正を図っていました。
ポイントになったのは、その直後に失点した後、前半41分にシソコが負傷交代したところにあったと思います。ここでポチェッティーノは、シソコに代わって守備力を維持するためにダビンソン・サンチェスを入れて5バックにする策ではなく、フェルナンド・ジョレンテを1トップに入れてデレ・アリをダブルボランチに移動させるという強気の采配を見せました。これまでポチェッティーノには守備力ベースの戦い方をするイメージを持っていましたが、ペップのシティに対してあの采配を見せたことは、いい意味で驚きでした。最終的には、その強気の采配がベスト4進出につながったような気がします。
3 / 5