プレミアの古豪を復活させた「中国マネー」と大物代理人の蜜月 (3ページ目)

  • ジェームス・モンタギュー●取材・文 text by James Montague 井川洋一●訳 translation by Yoichi Igawa

 メンデスにとっても、間違いなく実りは大きい。フォーサン・グループのフットボール業界への進出を手伝った見返りなのか、この中国企業がウルブスを買収する5カ月前には、グオ会長が運営する別の会社から自身のスポーツマネジメント会社「ジェスティフテ」に投資を受けている。


 今のところ、リーグ機構はメンデスとウルブスの関係性を咎めていない。そしてフォーサン社はプレミアリーグにとどまるためではなく、「イングランドと世界のフットボール界をリードする存在になるべく、最大限の投資を続ける」と息巻く。

 ウルブスのファンにとっては幸運かもしれないが、この先に何が待っているかはわからない。中国の権力と政治の状況は不透明で変わりやすく、すでに中国人オーナーが所有していた複数のクラブ──ミランやADOデン・ハーグなど──がトラブルに見舞われている。中国政府は、中国人や企業による国外クラブのオーナーシップを「資金の流出」と懸念しており、国外への投資も制限し始めている。

 過去に2度起こったグオ会長の"失踪"も、その一貫ではないかとの声が挙がっている。習近平はこれまで、「汚職と不正を改善する」という名目で、多くのビジネスマンを取り締まってきた。なかには、そのまま表舞台から姿を消した者もいる。習近平を批判する人々は、それを「反対勢力の鎮圧」とみなすだろう。

 2015年にグオ会長の身元が数日間確認できなかった時、フォーサン・グループの株式売買が滞った。彼が戻ってくると、フォーサン社は「(会長は)政府の調査に協力していた」との声明を発表。また、2016年に「同じことが起こった」と噂が流れた時には、フォーサン社の株価は10%も下落している。結局、この時はグオ会長が出張に出ていただけだったようだが......。

 久しぶりのプレミアリーグで大きなインパクトを残しているウルブス。彼らのサポーターは、クラブの未来が極東の政治や経済の状況ではなく、ピッチ上の結果で決まることを願っている。

■著者プロフィール■
ジェームス・モンタギュー

1979年生まれ。フットボール、政治、文化について精力的に取材と執筆を続けるイギリス人ジャーナリスト。米『ニューヨーク・タイムズ』紙、英『ワールドサッカー』誌、米『ブリーチャー・リポート』などに寄稿する。2015年に上梓した2冊目の著作『Thirty One Nil: On the Road With Football's Outsiders』は、同年のクロス・ブリティッシュ・スポーツブックイヤーで最優秀フットボールブック賞に選ばれた。そして2017年8月に『The Billionaires Club: The Unstoppable Rise of Football's Super-Rich Owners』を出版。日本語版(『億万長者サッカークラブ サッカー界を支配する狂気のマネーゲーム』田邊雅之訳 カンゼン)は今年4月にリリースされた。

(つづく)

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